Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
芥川龍之介の『老年』―痴呆性老人の姿
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.1302
発行日 1997年11月10日
Published Date 1997/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108532
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『老年』は,大正3年,芥川が22歳の時に発表した彼の処女作である.この作品は,「一生を放蕩と遊芸に使い果たした敗残の老人」(三好行雄)を描いた作品とされているが,この作品は,痴呆性老人を描いた作品としても読むことができるのではないかと思われる.
この作品の主人公は,房という一昨年還暦を迎えた男である.房は,「15の年から茶屋酒の味をおぼえて,25の前厄には,金瓶大黒の若太夫と心中沙汰になったこともある」ほどだが,まもなく親ゆずりの身上をすってしまい,三度の食事にも事欠くことになった.そのため彼は,わずかな縁つづきから,浅草の玉川軒という料理屋に引きとられて,今ではそこの楽隠居の身に収まっていたのである.
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