教養講座 小説の話・13
芥川龍之介と菊池寛
原 誠
pp.34-36
発行日 1957年8月15日
Published Date 1957/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910406
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芥川龍之介は明治25年生れ,菊池寛は22年生れですから,菊池のほうが3歳くらい年長ということになりますが,2人とも一高では同級生でした。同じクラスに久米正雄や山本有三がいました。そして一級上には,豊島与志雄がいたのです。
芥川龍之介は,新原敬三という人の長男として,東京京橋の入船町に生れました。辰年辰月辰日辰刻の生れなので,龍之介と名づけられたということです。生れて間もなく母親が発狂したためと,母方の親戚の芥川家に子供がなかつたために,そこへ養子に出されました。この芥川家は代々幕府のお坊主を勤めていた由緒ある旧家で,当時は本所小泉町に細々と暮していたのですが,しかし格式のある家だけになかなか,江戸の文人めいた粋なコシラエ,都会人的なミエの多いウツトウしい家でした。生れながらに病弱で感受性の鋭い龍之介は,こうした古くさい,格式ばつた,暗い家庭環境の中で,次第にペシミステイクな懐疑的な考えをもつ少年になつていきました。物思いに沈んでいます。一室にとじこもつて本を読んでいるだけで,世間の風に当ろうとはしませんでした。彼は「人生を知る為に街頭の行人を眺めなかつた」「あらゆるものを本の中に学んだ」と云つています。生来の才能に加えてこうした家庭環境が,龍之介をやがてすばらしく神経質で,すばらしく頭のきれる男にしていつたのです。
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