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はじめに
リハビリテーションの基本概念によれば,その目的は単に機能回復に留まらず,できるだけ高い水準で社会生活に適応させ,QOLの向上を図ることである.運動麻痺のみならず,失語,失認など高次機能障害を含めた損傷に治療的に対応し,改善させるのが第一であるが,そのうえでなお認められる能力障害については,残存機能を利用し,訓練,補助具,家屋改造,さらには家族や介護者の支援などで代償的に対応しているのが実状である.
中枢神経障害後遺症は半永久的な機能障害であるため,結果的に壊れた神経機能には目をつぶり,残存した機能を最大に発揮させようとするリハビリテーションが主体となっている.脳血管障害の治療はリハビリテーション医学の中でも大きな位置を占めている.その長期予後を左右する因子として,急性期のリハビリテーションはもとより,慢性期の維持的リハビリテーションの占める役割は大きく,患者,家族はもとより,医療,福祉,行政にとっても重要な課題となっている.
脳血管障害による死亡率は,1965年をピークとして一時減少傾向を示したが,急性期治療技術の改善や人口構成の老齢化に伴って,最近では入院や通院患者数はむしろ増加の一途を辿っており,現在,ガンに次いで日本人の死因第2位を占めている.この主な原因は脳梗塞の増加である.また全国で約60万人いる寝たきり老人のうち30~45%が脳梗塞による(寝たきり原因第1位).また,老人性痴呆の半分以上は脳血管性痴呆によるものといわれ,アルツハイマー型痴呆と並んで社会的にも重大な課題となっている.
確かに従来の脳梗塞治療は,浸透圧利尿剤による抗脳浮腫療法や血栓融解療法,抗血栓療法などを用いることで急性期死亡率の低下には一定の成果を挙げてきたし,慢性期におけるリハビリテーション療法の有機的併用により,患者の麻痺機能の回復は以前よりは改善しつつある.しかしながら一般的に,患者の肢位や言語の麻痺機能の回復は十分とは言えず,重度の肢体機能障害や高次大脳機能障害などの脳梗塞後遺症を抱えたまま社会復帰できない患者数が増大し,有病率は上昇し続けている.
一方,近年の飛躍的な研究の進歩により,脳梗塞進展における細胞接着因子の役割や,梗塞周辺部の細胞死におけるアポトーシス(自殺死)の関与,血管内皮増殖因子や神経栄養因子の治療への可能性など新しい重要な発見が相次いでいる(表1),しかしながら,このような最新の基礎的研究の成果は,まだ臨床現場に治療薬の登場という形で還元される段階には至っていないのが現状である.本稿では,このような背景を受けて脳梗塞の遺伝子治療の果たす役割と可能性について述べる.
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