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はじめに
発達障害を早期に発見し,療育指導を中心とした早期対応を行う臨床システムが全国各地で着々と整備されつつある1).この臨床システムにおいて早期発見の拠点となるのは乳幼児健康診査の制度である.なかでも1歳6カ月児健康診査は,十分に組織化された計画のもとで実施すれば,それまで早期発見がきわめて困難とされていた自閉症などの広汎性発達障害に対して十分高く実用的なスクリーニング感度を得られる2)ことが知られるようになった.こうしてわが国では,多くの精神発達障害が遅くとも1歳から2歳までの間に早期発見されるようになってきている.
しかし,障害の発見技術が進み,実際に乳幼児健康診査の場で障害のあるこどもたちが早期に発見されるようになった反面,それに伴って生じた新たな,そして重要な臨床テーマにわれわれはしばしば直面させられる.それは,親が自分のこどもの障害に気づくより先に,専門家(第三者)がこどもの発達に異常があることを捉え,そしてそれを親に伝えるという事態の出現によって生じた新しい臨床テーマである.こどもがまだごく低年齢であれば,親は,たとえこどもの発達の遅れや養育のしづらさを一部感じてはいても,それをことさら「異常」,「問題」,ましてや「障害」と認識するとはかぎらない.また,発達が異常かもしれない,問題になるかもしれないとまで思ったとしても,その考えを「個人差の問題だろう」とか「一時的なものにすぎないだろう」との希望的な主観に置き換えがちである.「障害」と自ら結びつけて考えることのほうがむしろ少ないのである.
そのように心の準備が必ずしもできていない状態の親に対して,こどもに発達障害がある(その疑いも含め)ことをしっかりと伝え,その情報にもとづいて親が療育を要望するような自己決定がなされなければ早期療育は始められない.とはいえ,こどもの発達に異常があって,それが一時期だけのものでなく永続的な障害となる可能性を多分にもつことを親に伝えるのは,決して容易なことではない.言うまでもなく,その際に治療者に障害を早期に見極める能力があることは大前提である.しかし,親がこどもに障害がある(疑いも含め)ことを知ることと,その親がこどもの療育を要望するまでに動機づけられることとの間には大きな隔たりがある.その間に介在し,親の心の支えになり,養育への有益な助言を与え,そして障害が発見されたこどもを療育に導入することが治療者の最初の仕事である.
発達障害への早期対応には,こどもへの早期療育とともに,親支援に関するプログラムも必須な要素となる.それなくして,インフォームド・コンセント3)の倫理にもとづいた早期療育の展開はありえないからである.
本稿では以下の項目立てにしたがって,こどもの障害の早期発見から早期療育に至るまでの親の心理とそれに対するカウンセリングのあり方の基本について述べていく.
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