Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
漱石の反適応主義―「吾輩は猫である」
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.199
発行日 2000年2月10日
Published Date 2000/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109172
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『吾輩は猫である』(明治39年)の苦沙弥は,漱石その人を思わせる中学の英語教師だが,彼の語る人生観には,必ずしも世間への適応をよしとしない,いわば反適応主義的な価値観が示されている.
苦沙弥は,「自分のように出来損ないの木像は仏師屋の隅で虫が食うまで白木のまま燻っていても遺憾はない」と自認するごとく,世間への不適合感を抱いている「神経衰弱」者である.彼は,周囲から「気狂い」扱いされるのみならず,友人からも「出来損なったら世の中に合わないで我慢するか,又は世の中で合わせるまで辛抱するより外に道はなかろう」と諭されるような人間だったのである.
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