Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
夏目漱石の『吾輩は猫である』―日本文化と障害受容
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.87
発行日 1999年1月10日
Published Date 1999/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108887
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夏目漱石の初期の作品には,文明批評的な要素が数多く含まれているが,『吾輩は猫である』の8章には,日本文化の障害受容的な特性に言及した場面がある.現実への不平・不満に悩む主人公苦沙弥のもとを訪れた友人の八木独仙が,次のような,西洋人と日本人の違いを指摘するのである.
すなわち,独仙は「西洋人のやり方は積極的積極的と言って近頃大分はやるが,あれは大なる欠点を持っているよ」として,西洋的な現実対処の仕方を批判する.「第一積極的と言ったって際限がない話だ.いつまで積極的にやり通したって,満足という域とか完全という境にいけるものじゃない.向うに檜があるだろう.あれが目障りになるから取り払う.とその向うの下宿屋がまた邪魔になる.下宿屋を退去させると,その次の家が癪にさわる.どこまで行っても際限のない話さ」.
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