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はじめに―米国の自立生活運動
この運動の誕生は「自立生活の父」と称されるエド・ロバーツがカリフォルニア大学バークレー校に入学した1962年とされる.14歳の時にポリオとなり,首から下がすべて麻痺し,呼吸器付きの電動車いすを利用していた.その重い障害のために受け入れてくれるアパートもなく,キャンパス内にある病院から通院していた.が,病院は生活の場とはならず,管理,保護されるだけということに気付かされた.当時のアメリカは,1964年に公民権法が制定され,権利を獲得するための黒人運動や女性運動が盛んな時期だった.障害のある学生もこれらの運動の影響を受け,1970年,バークレー校で「身体障害者学生プログラム」が開始された.これは,重い障害があっても地域で学生生活が送れるよう,介助や住宅などの必要な援助を障害をもつ学生に提供するものだった.
1972年,キャンパス内で得られた介助や住宅などのサービスが使えなくなることから,同じ障害をもつ仲間と話し合い,家族や友人の協力も得て,地域の中に自立生活(Independent Living;IL)センターを創ることになった.これが自立生活運動の始まりである.
彼らが掲げた思想は次の4つのものである.
①障害者は「収容施設」ではなく,「地域」で生活するべきである.
②障害者は,治療を受けるべき患者でもなく,保護される子供でも,崇拝されるものでもない.
③障害者は援助を管理すべき立場にある.
④障害者は「障害」そのものよりも社会の「偏見」の犠牲者になっている.
この自立生活運動は,社会運動にとどまらず,従来の医療モデルやリハビリテーションモデルも変更させたという.すなわち,サービスを管理するのは障害者自身であり,問題の解決は医療やリハビリテーションの専門家の介入ではなく,ピア・カウンセリングによる援助や環境の変更によってなされ,サービスの目標はActivities of Daily Living;ADLを高めることや職業につくことではなく,自立生活であるという自立生活モデルである.
このモデルでは「障害者が他の人間の手助けをより多く必要としている事実があっても,その障害者がより依存的であることには必ずしもならない.人の助けを借りて15分かかって衣服を着,仕事に出かけられる人間は,自分で服を着るのに2時間かかるため家にいるほかない人間より自立しているといえる」のである.この,自分のやりたいことを実行するために,障害ゆえにできない事については援助の手段として使うという自立観は,自立生活モデルの中心的な考え方である.
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