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はじめに
脳性麻痺という障害を『心身障害事典』では,「脳性麻痺とは,発育述上の脳に非進行性の病気を生じ,その結果主として永続的運動障害をきたし,併せて種々の随伴障害をもつものをいう」1)と定義している.さらに症状に関しては,「一般に神経症状は種々さまざまであるが,成長につれて変化することもあり,終始一定の症状とはいえない」2)と説明している,これらの定義や説明からも理解できることであるが,脊髄損傷や筋ジストロフィーという他の障害に比べて,「脳性麻痺」という障害は,症状を画一的に捉えることが不可能なほどに千差万別であるといえる.そして,運動障害が単一的に現れてくるのではなく,てんかん発作,知能障害,知覚障害,言語障害等の随伴障害が複合的に重複されるのである.このような理由から,「脳性麻痺」という障害を持つ者を概念規定していくことは極めて困難な作業なのである.
このような観点において,近年になり,「脳性麻痺」を持つ児童は「発達障害児」という範疇に含めて考えられるようになってきている.「発達障害」とは,精神薄弱,脳性麻痺,てんかん,自閉症等が含まれ,主に精神薄弱に密接に関連するものか,精神薄弱者と同じ療法を使用する者も含まれる.しかしながら,「発達障害」という概念は,純粋な身体障害のみを保有する者を含まないので,「脳性麻痺」のすべてを包括することは無理としかいえない.社会福祉の対象者として「脳性麻痺者」を捉えていこうとすると,医学的に「脳性麻痺」というものを考察していくのではなく,『生活』というものを基本にした考え方が必要となってくるのである.それ故,障害による症状の重軽に関係なく,「脳性麻痺」をはじめとして,全身に症状が現れてくる障害を持つ者を「全身性障害者」と呼び,生活場面での身体的および精神的制限(limitation)が存在する者として概念を整理していく必要がある.
この論文では「脳性麻痺」という言葉を使用するが,主に「全身性障害者」という概念を用いており,車いす使用者に代表される要介護者を対象としている.そして,欧米と我が国との比較を中心に,自立生活運動に関連した「脳性麻痺者」の動向を考察していくとともに,自立生活教育に関しても比較分析を加えてみたい.
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