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はじめに
運動障害を持つ人々を観察していると,目的を達成することに一生懸命で,動作の過程や方法に関心を示さないことが多い.したがって熟練した運動家が示すことのできる,身体の細部を微妙にコントロールし,最小のエネルギーで最大の効果をあげるような動作を行えない.むしろ動作はぎこちなく,非常に努力して,必要以上の力を入れる傾向がある.
このことが問題になる場合がある.例えば脳性麻痺者や脳卒中後遺症による片麻痺者では,このような動作の仕方で長期間生活しているために,筋緊張がしだいに亢進し,痛みや変形・拘縮などの二次的障害を誘発する.別の例を考えてみると,慢性疼痛患者で不良姿勢や誤った動作習慣を原因とする場合がある.これらの患者が正しい静止姿勢や安定した動作姿勢を学習しないと,疼痛を何度も繰り返すことになる.すなわち,運動障害を持つ人々は,その身体状況で環境へ適応することが難しく,これが障害の重度化や二次的な障害を起こすことになると考えられる.
これを予防するためには,障害のある身体で環境に適応するために,どのように動作を行ったら良いかを学習することが重要である.これは「結果が全て」という動き方をするのではなく,環境を考慮しながら身体の動きのわずかな違いに気づき,余分な力を入れずに,エネルギーの少ない楽な動作の仕方を選択することである.
この学習を治療環境で行う場合は,運動障害を「治して無くしてしまう」ことが目的になるのではない.治療の目的は,「患者が環境との相互関係を維持しながら,積極的に環境へ適応していくことへの援助」である.この過程は,「患者が自分の動作の方法に問題があることに気づき,自分で動作を行ってみて環境に働きかけ,この結果から環境への理解を深め,同時に力学的に無駄のない動作を選択できるようになること」であろう.
本文では運動障害者が環境へ適応する過程で必要となる運動学習プロセスや,学習を促すための治療者の関わりについて述べてみたい.
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