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はじめに
脳科学などの基礎研究の発展が目覚ましい中,筆者らは1990年代から脳科学の臨床応用の必要性を訴えてきた.その思いから,当時は「神経疾患のリハビリテーション」という程度の意味しかなかった『ニューロリハビリテーション』という用語について,「ニューロサイエンスとその関連の研究によって明らかになった脳の理論等の知見を,リハビリテーション医療に応用した概念,評価法,治療法など.換言すればNeuroscience-based rehabilitationである」と再定義した1).また,当時は一般的ではなかった脳の計算理論や学習則の考え方を普及させるため,数多くの講演会やセミナー,あるいは教科書2)などで取り上げた結果,例えば「内部モデル」という用語は今や多くの医師やリハビリテーション関連職種が知るところとなった.
しかし一方で,運動学習理論は理論としては面白いが,実際のリハビリテーション臨床に役立つのか,という声が少なくないことも事実である.実は,これまで臨床に直接役立つような,いわゆる「take home message」を強調しなかったことには理由がある.1つの基礎研究で一定の知見が得られたからといって,その解釈を運動障害治療に応用するには,丹念かつ慎重なトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)の積み重ねが必要だからである.基礎研究を踏まえ,一例一例での詳細な検討,症例報告,効果と安全性の検証,無作為化比較対照試験,そしてメタ解析などに橋渡しする中で,根拠をもって普及を図るべきであろう.このことを怠って,基礎研究の1つの結果だけを短絡的に臨床応用すれば,ここ数年話題になっている「でたらめ神経科学」(Crockett3):“neuro-bunk”)のような批判につながる可能性もある.「でたらめ神経科学」とは,1つの神経科学的な基礎研究結果を,実験ではまったく証明されていない事象(例えば,ある食品を食べれば行動が変化するなど)に拡大解釈するといった昨今の状況を揶揄した表現である.特に,商業主義的に商品の販売促進に脳科学研究が利用される状況には,注意が必要である.
そこで本稿では,上記のような警鐘を十分に踏まえ,断定的に述べることを避けつつ,慎重に臨床応用的な考察を進めることにする.まず,運動学習の3つの学習則およびその周辺の概念について概説し,運動学習理論で議論されるさまざまな要素と臨床との関連について,「考察と私見」を述べたいと思う.
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