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来る二十一世紀は,脳の解明に多くの科学者が従事する脳の世紀である.同時に,コンピューター技術と情報網の飛躍的拡大によって,科学や医療の情報を誰でも即座に入手できる時代である.医療においても,脳血管障害と老人性痴呆が重要な対象となる脳の時代で,これらへの治療手段の多様さと有効性がリハビリテーション医療の評価を大きく左右するであろう.
今日でも人口の高齢化に伴う障害者の増加で,リハビリテーション医療への期待は高いようであるが,介護保険が現実の問題となってみると,まず行われるべき機能障害や能力障害へのリハビリテーション医療抜きで,介護の支援という福祉が中心になろうとしている.障害が残れば誰もがリハビリテーション医療を頼りにしているものと思い込んで,福祉関係の人と話すと「医者は……はするなとブレーキを掛けるばかりで,実際の方法は指導もできない」と邪魔物といわんばかりの評価も聞かれて愕然とする.これまでの医師はリハビリテーションの教育を受けていないからやむを得ないが,リハビリテーション医は障害への積極的な対応と職員の実技指導もできると釈明しているものの,リハビリテーション医が必ずしも基本的な理学療法や作業療法に関する知識と技術があるとは限らないことを知ると,不安を禁じ得ない,高齢の障害者はもともと高血圧や骨関節疾患などさまざまな疾患を合併し,中枢神経障害では嚥下障害や排尿障害などもしばしば合併する.医学的な全身管理と能力の維持を並立させるためには,高度のリハビリテーション的対応が不可欠であるにもかかわらず,現在の医師への低い評価は,当然の帰結として,医療と福祉の境界領域を,介護の支援を中心とした福祉の領域に含めてしまう方向に作用している.これは障害者にとっても決して幸せなことではないし,医療経済的にも益する所はない.
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