Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
『ワルツ』―肉体と心の曖昧な関係
沖田 一彦
1
1広島県立保健福祉短期大学理学療法学科
pp.388
発行日 1997年4月10日
Published Date 1997/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108361
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重兼芳子(1927―1993)は,街のカルチャーセンターで文学の手ほどきを受け,子育てをしながら小説を書き続けた作家である.芥川賞を受けた『やまあいの煙』1)では,火葬場で働く青年,理学療法に打ち込む女性,近親相姦を経験した老女といった,一見接点のない三者を性的に関わらせることで,生と死と愛の問題を表現した.その作者が,自分自身の障害体験を下地に,肉体と心の関係というテーマに取り組んだのが『ワルツ』2)である.
戦時下.女学生である里子は,左脚の重さから動作の機敏性に欠ける.教師からは,行進中のステップの乱れを叱陀され,親からは,用事を言いつけられたときの大儀さをなじられる.敵に勝つためには,皆と同じステップを踏んで精神の統一を図らなければならないし,将来嫁として可愛がられるためには,家でこまめに動く習慣を身につけなければならないというのだ.この「なければならない」が,里子には左脚よりも重く感じられる.
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