——
扉 肉体よりもたましいを
pp.9
発行日 1953年11月15日
Published Date 1953/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912485
- 有料閲覧
- 文献概要
世の中に,この肉体をむしばみ,苦痛を与える病害が何百何千,何万とあるなかでも,最もてつてい的に人間の肉体をくいあらし,最後には其の血液の中にひそんでしまう,而もその病状が最も悲慘なものは癩でありませう。癩が伝染病であることは,只今では常識になつていますが,今でもまだ,梅毒のように,遣伝するものだと考え,現在患者をもたない家族に対しても,ずつと昔に病人を出したために交際を全く持つ事を許されない気の毒な人々もあるときいています。
公衆衞生の見地から国民の多勢をまもるために改正を行われた癩予防方法の改正に際しては,現在罹患している患者の猛烈な反対運動が起り,国会には申すに及ばず,担当局である厚生省の玄関前に幾日も幾日も座りこみをやつて,成功させるべく努力をしていたことは,東京人の新知識とし御存知の人も多いでせう。彼等は病気をみとめ,自発的に必要な取扱いをうける気持はあるのですが,強制される事を拒んだのです。自由をほつしていたのです。ただ今後の問題は,「伝染病」という肉体のみを強く意識し,肉体と同時に存在する彼らの「たましい」を尊重しなかつたところにくいちがいの端を発しているようです。もつと,彼らの,せつない,苦悩のたましいをよく理解し其の立場からことをわけて説明するべきであつたのでせう。
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.