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はじめに
二分脊椎は水頭症,脊髄麻痺,体幹・下肢変形に起因する知的,運動,膀胱直腸障害を主徴とする先天性の疾患で,近年,脳神経外科,整形外科,泌尿器科を中心とした包括的医療システムの整備が進み,疾病の適切な管理がなされ,生来の機能欠損は最小にとどめられ,合併症による2次的機能損失は予防されるようになり,患児の生来的能力を最大に発揮させることが期待できるようになった.しかしMRIによりこれまで把握が困難であった中枢神経系の形態異常,ことに脊髄係留症候群,脊髄空洞症,キアリ奇形などが非侵襲的に描出されるに至り,成長に伴い生じてくる遅発性神経障害が注目されるようになった.
神戸大学脳神経外科玉木紀彦教授を主任研究者とする厚生省委託研究「脊髄空洞症および二分脊椎症に伴う脊髄病態および治療に関する研究」では,二分脊椎の長期経過について多施設共同調査を行い,以下のような報告をしている3).
調査は全国の大学,こども病院など7施設で,1974年10月から1995年12月までの間に4年以上にわたって経過を観察された105例の開放性脊髄髄膜瘤患児を対象に行われた.
全例が脊髄髄膜瘤に対して外科的治療を受け,この間に死亡例はなかった.水頭症は91例(77.1%),キアリ奇形は88例中45例(51%),脊髄係留は104例中33例(31%),脊髄空洞症は104例中20例(19.2%)に合併しており,遅発性神経症状悪化(脊柱側彎,下肢変形,膀胱直腸障害の進行)は31例(29.5%)にみられた.長期的にみると運動麻痺の悪化は1例にみられたが,感覚障害の進行はみられなかった.20例に係留解除手術が行われたが,運動麻痺の改善は31%,感覚麻痺の改善は44%,膀胱直腸障害の改善は6%の症例でみられ,側彎,下肢変形は改善されなかった.脊髄空洞症合併例では側彎の進行が非合併例よりも顕著であった.係留解除後のMRI画像上の脊髄円錐の上昇,脊髄の前方偏位などの所見は手術成績との間に相関が認められなかった.すなわち,MRI画像所見と神経所見とは必ずしも一致せず,係留解除手術の適応は臨床症状とMRI画像所見を慎重に検討して決める必要があると報告されている.
遅発性神経障害の診断根拠とされる神経症状,変形,膀胱直腸障害,移動能力などの臨床症状の把握,評価には多くの問題がある.
学童期以降には徒手筋力検査,感覚検査の再現性,信頼性が増すが,乳幼児期には神経症状の客観的な評価が難しく,下肢変形や運動発達段階を利用した定性的な評価にならざるを得ない.筋力を反映すると考えられる運動能力,活動性などは成長に伴って変化し,かつ身長,体重など体格の影響を受ける,また神経障害を伴わない骨関節系の変形は成長とともに変化することはよく知られている.
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