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はじめに
筆者に与えられたテーマは「精神障害者リハビリテーションの諸アプローチ」であるが,依頼文にはいくつかの条件が添えられていた.すなわち,①医学的な面だけでなくトータルな面からとらえること,②精神障害をどのような視点でみるか,対象となる問題とは何か,解決の手段はどのようなものか,目標は何になるかを含めること,③個別的な技法というよりは,精神障害にどう対処するかという基本戦略のいくつかが浮き彫りになるように,④しかも,身体障害に関わるリハビリテーション関係者に分かりやすい表現で具体的に執筆すること,という条件である.
これは正直なところ荷が重い.依頼文を見て,しばし困惑した後,いつものモットーを思い出した.「分からないときは現場へ」がそれである.患者さんの気持ちが分からなくなれば本人に会って聞く.家族関係や分裂病再発のきっかけが分からなくなれば家庭訪問をして聞く.具体的なもののなかにこそ解決の手がかりがある.
そういうわけで,筆者が関わったケースのうち,精神科リハビリテーションのニーズを代表すると思われる3人を頭に描き,彼らの社会復帰の道筋をたどりながら,精神障害者リハビリテーションの諸アプローチを考えることとしたい.
結論を先どりして申し上げると,筆者が強調したいことは次の3点である.第1に,病院を出発点としたアフターケアとしてのリハビリテーションではなく,地域生活への定着を想定したリハビリテーションが一貫して行われるべきこと.第2に,精神科リハビリテーションは何か一つの方法を機械的に適用すればうまくいくというものではなく,患者の個別性に対応し,本人の希望や意欲を尊重した,柔軟で多様な方法が用いられるべきこと.第3に,患者個人だけに目を向けるのではなく,患者を取りまく環境としての家族や近隣の人々,職場や作業所等の関係者,保健婦や福祉関係者の理解と積極的な支援を求め,社会資源を活用し,支援ネットワークを形成する努力が必要なことである.
リハビリテーションにおける患者のニーズは多様化しており,それぞれに対応した治療と援助の方法・技術が発展してきている.最近の10年間のこれらの発展はめざましいものがある.「精神障害にどう対処するかという基本戦略」は,①患者の特性とニーズの詳細なアセスメントにもとづき,②患者の主体的な参加を促しながら可能な目標設定を行い,③社会復帰資源を積極的に活用し,④多様化した治療・援助技法を活用して環境に働きかけながら地域での定着を図ることである.
具体的なケースを取り上げ,これらの検討を進めたい.
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