Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
宇宙飛行士サンチョ・パンサ―「グローバル」という概念
高橋 正雄
1
1東京大学医学部精神衛生・看護学教室
pp.181
発行日 1996年2月10日
Published Date 1996/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108047
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昨今よく使われる言葉に,「グローバル」(全地球的)という言葉がある.国家や民族という概念がしばしば人類を対立に導き,多くの悲劇を産み出してきたのに対し,この言葉は,環境問題や資源問題など従来の国家単位では対処しきれなくなった問題で使われる卓れて今日的な概念である.そして,このグローバルという言葉を最も実感させてくれるのが人工衛星からの映像で,実際に宇宙から地球を眺めた宇宙飛行士達は,漆黒の闇の中に輝く地球がかけがえのないもので,その中での人間同士の差別や抗争がいかに空しいものであるかを繰り返し語ってきた.
しかし,1615年に出版された『ドン・キホーテ』の続編(永田寛定訳,岩波文庫)には,こうした現代的な視点を先取りするような言葉が記されている.それは,『ドン・キホーテ』続編の第41から42において,ドン・キホーテとサンチョ・パンサが公爵夫妻に招かれる場面で,ここでドン・キホーテ達は,二人を一座の慰み物にしようとする公爵夫妻から,クラビレーニョという天駆ける木馬を与えられる.二人は目隠しされてこの木馬に跨がるのだが,木馬が空を飛ぶはずもなく,二人は周囲の人々の「あれ,もう浮きあがって,矢よりも早く,風を切ってるよ」といったからかいの声に騙されて,自分たちが空を飛んでいるのだと思い込む.そして,いよいよ飛行が終わって,無事帰還という段になった時,飛行中の模様を語るサンチョの言葉が,正に宇宙飛行士の言葉そのものなのである.
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