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はじめに
2009年3月から開始された日本人の宇宙飛行士(以下,飛行士)による国際宇宙ステーション(International Space Station;ISS)長期滞在ミッションは,2015年7月末に打ち上げが予定されている油井飛行士のミッションがわが国にとって6回目の経験となる.宇宙滞在ミッションにおいては,飛行士が常に最適なパフォーマンスを発揮できるよう,健康を最適な状態に維持することが重要であり,宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency;JAXA)では宇宙飛行士健康管理グループ医学運用チームが飛行士の健康に関連する各種支援に当たっている.同チームは,業務を統括する健康管理責任者を長とし,フライトサージャン,バイオメディカルエンジニア,環境管理担当者,被ばく管理担当者,精神心理支援担当者,健康管理担当看護師,生理的対策担当者で構成される.微小重力環境下で生じる骨量減少や筋萎縮など,身体構造や心身機能への悪影響1)に対して,主として運動という視点から講じる対応を生理的対策と称し,トレーナーとしていわゆるExercise Countermeasureを担当する要員が生理的対策担当者である.
飛行士に対する生理的対策は,① ISS搭乗に指名されるまでの期間(飛行任務期間外),② 指名後ISSに搭乗する前までの期間(飛行前),③ ISS搭乗中の期間(飛行中),④ ISSから地球へ帰還した後の期間(飛行後)に大別され,各フェーズにおける目的に応じた対応が取られている.なお,ISS搭乗の指名を受けた日本人飛行士は米国テキサス州ヒューストンにあるアメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration;NASA)ジョンソン宇宙センター(Lyndon B. Johnson Space Center;JSC)を飛行士としての任務にかかわる訓練の拠点としているため,ISS長期滞在ミッションにかかわる生理的対策はNASA体力訓練担当者(Astronaut Strength Conditioning and Rehabilitation team;ASCR)の協力の下で行われている.
本稿では,上記各期間での具体的な対応,および軌道上における運動機器とその運用について,将来のミッションへ向けた取り組みも含め紹介する.
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