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脳損傷患者のリハビリテーションの全過程を克明に描いた映画「心の旅」については,2年前の本欄で紹介した(20(7):637,1992).今回紹介する「ウォーターダンス」は,それの脊損患者版.登山事故による脊損のため車椅子生活のニール・ヒメネズ監督の闘病体験をベースにしているため,アメリカでの脊損患者のリハビリテーションが実にリアルに描かれている.他面,生真面目な「心の旅」とは異なり,乾いたユーモアがただよう.「アメリカ版『病院へ行こう』」と評されているほどだ(塩田時敏氏.「キネマ旬報」1993年10月号).ちなみに「ウォーターダンス」とは,「人生は水の上で踊り続けるようなもの」.
舞台は,カリフォルニア州ロサンゼルス効外にある郡立リハビリテーション専門病院.映画は,事故で頸髄を損傷した小説家ジョエル(エリック・ストルツ)が集中治療室から大部屋に移されるところから始まる.一見,彼の苦悩は大きくはない.脊損になっても小説は書き続けられるためかもしれない.しかも,彼の「愛人」(友人の妻)は,入院後も足繁く見舞う.しかし,同室患者との交流・葛藤の中で,彼の苦悩が明らかになる.一見陽気に振る舞うが家庭崩壊に直面している黒人,暴走族で保険金を必要以上にせしめようと画策している人種差別主義者の白人,常にたくさんの家族が見舞う韓国系青年等,まさに「人種のルツボ」だ.と同時に,彼の障害の受容を促進するのも,この患者たちだ.彼らと連れだってのストリップ・バーでの馬鹿騒ぎ,患者の要求を無視する病院電話交換所への集団殴り込み等を経て,心の安定を取リ戻した彼は,退院の日を迎える.この映画で描かれているのは,善男善女ではない,普通のダメ人間の心のリハビリテーションだ.
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