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はじめに
現代に生きる我々は一般に日常の生活において体を使う機会が少なく,肥満傾向さえもみられる.成人病予防の見地からも,体力増進策が積極的に叫ばれている.これに呼応して身近に出来る毎日の運動や,余暇をスポーツに費やすとかで,身体機能の向上を計り,併せて心理的効果を得て満足することもできる.しかし,身障者はその能力障害(disability)のために日常生活途上のみならず,機能訓練を受けている時期においてさえ,心拍数が持続的に高く維持されるような運動が少ない.すなわち,ADLレベルでの機能向上はみられても,持久的体力の増進に十分役立っていないと考えられる.
脊損者の場合はそのImpairment level(機能障害)に従ってdisability levelが相関して変化し,残存筋群の量に従って身体的能力(physical work capacity)が規定されてくる.しかも,この能力を修飾する要素には尿路系の機能,褥創,自律神経系の機能,それに本人の意欲などがある.能力の差があっても,それに応じた努力をすることが全身調整の意味からも大切なことである18).この点で脊損者も健常者も何ら変りはないと考えられる.
1981年は国連提唱の身障者年であり,これを機会に国際パラプレジア医学会の副会長役を務めている中村裕(共著者)の努力で,この年の秋に,第1回大分国際車いすマラソン大会が行われた.マラソンは健常者の行うスポーツの中でも最も過酷な全身持久力を要するものである.車いすマラソンは車いす生活者の行うスポーツの中でも同様に,最もハードなスポーツと考えられる.そこで,第1回のこの大会で得たdataをもとに,車いす生活者である脊損者の体力の限界や,脊損者の生理学的背景について考察を加えることとする.
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