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はじめに―技術の科学性を問うとはどういうことか
リハビリテーション医学研究者のこれまでの努力により,多数のリハビリテーション・テクニックが開発され,そのうちのいくつかは専門職の支持を得て臨床の場で広く使用されている.多くのテクニックの臨床的有効性はもとより,その科学的基礎について,それぞれに検討することは重要なことである.
けれども今日のリハビリテーション医学において,直ちに個々の技術の科学性の検討に具体的に取りかかればそれで済むであろうか.むしろ,技術の科学的基礎を検証することの意味,手続きそのものから反省することがとりわけ重要である.
例えば,Facilitation techniques(促通手技)の科学的基礎として,運動ニューロンの振舞いに関する生理学的研究が枚挙される.この手技の生理学的基礎としてこれらが検討に値することはもちろんである.けれども,人間の運動技能,日常動作の運動パターンは,多くの運動ニューロンの活動を中枢神経系が統合してはじめて実現される.運動技能とは一つの統合された機能であり,かかるものとしてはじめて具体的な意味を持つ人間の行動(Behavior)となる.今日の神経生理学は人間の行動をニューロンレベルに還元して説明できる段階に達してはいない.リハビリテーション医学の目的はヒトの人間としての機能,行動,さらには役割遂行の障害を除去改善することにある.この目的と今日の生理学のレベルとになお大きな距離があることに自覚的であることが必要である.ところが,Facilitation techniquesの科学性を示すとされる,1960年以前の単純な電気生理学的実験結果が,しばしば容易に行動の変容(学習)に結び付けられて解釈される.行動や学習は独自の構成概念であり,その研究には独自の方法のあることがしばしば忘れられる.
本稿では個々のリハビリテーション・テクニックの科学性を問う前提の問題として,以下の2点に注意を促したい.第1に,技術の科学性を検証することの意味,手続きとはどのようなものかを考える.第2に,科学的であることの意味あるいは手続きの解説では済まない特殊な事情が,リハビリテーション医学の研究にはあるのではないだろうか.すなわち,この研究の主要な対象は人間の行動という複雑なシステムであり,それには実験的研究とは別の研究方法が自覚的に用いられねばならないということである.
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