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Ⅱ.神経生理学的技法の問題点
乳幼児期の訓練法として,私達は現在Vojta法,Bobath法という技法を有している.乳幼児期の児童は,自発的な身体活動をすでに行いはじめているとはいえ,その運動の随意調整能力,合目的使用能力などの,いわば主体としての運動の自己制御能力はまだ十分に発達していない.Vojtaが提示した7つの姿勢反射でもわかるように,この時期の児童が示す空間における体位の自動制御は未だ反射的である.即ち,この時期における運動の制御は,基礎的な神経生理学的反射(反応)機構にその大部分を負っているといえる.神経生理学的な面に基礎をおく上記訓練技法は,それゆえ,この時期での訓練法としてもっとも適切なものと考えてよいであろう.
しかし,当然のことながら,人間はこのような姿勢反射機構によってのみ運動が規制される存在ではない.初めの頃の神経発達学的視点のあやまりは,反射・反応機構によって人間の運動を説明しすぎた点にある.例えば非対称性緊張性頸反射(ATNR)が,当初“反射”として正常新生児に出現すると説明されたが,観察がすすむにつれ,それが反射というステレオタイプな現象でないことから,反応ともアティテュードともいわれるように変ってきた.また発達の過程で,このATNR様の姿勢は最初は頻繁に出現するが次第にすくなくなり,随意運動の基礎となる下位の神経生理学的機構として組みこまれ,表面上はマスクされていくというように理解されてきてもいる.新生児期の運動の制御機構は,大むね反射・反応的であるにしても,すでにより上位の運動制御の萠芽はあり,それが急速に発達していくものと理解してよいであろう.生後6ヵ月になってねがえりをはじめた乳児にとっては,ねがえりを行うことが可能な神経生理学的機構が成立することと同時に,ねがえりをしようとする乳児の「主体的」な意図と,運動遂行のプランと努力が必要となる.従って運動の制御というものを,反射(反応)的運動制御機能と,主体(意図)的運動制御機能とにわけて考えると,運動発達の過程で,当初は前者が発達し,ついで後者がオーバーラップして発達しつつ優位を占めるにいたると考えてよいと思う.Vojtaの7つの姿勢反射が,正常児では1歳頃より定型的な反応様式を示さなくなるのは,後者,すなわち主体的運動制御機能が,反応をゆたかに脚色するからに外ならない.
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