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はじめに
われわれは,本誌特集などで数度にわたって「重症ハイリスク疾患による全身体力消耗状態」(以下,ハイリスク・体力消耗)のリハビリテーションについて述べてきた1~4).1988年1月から1990年7月までに東京大学リハビリテーション部を初診したハイリスク・体力消耗患者108例のうち悪性腫瘍を原因疾患とするものは約7割と大きな比重を占める.
ハイリスク・体力消耗状態を示す悪性腫瘍患者とは,原発癌の再発や転移,これらに対する治療による種々の副作用などがあるために疾患レベルでは生命の危険が大きい重症な状態にあり,障害レベルでは全身体力の著しい低下とさまざまな廃用症状が主な障害となった患者である.
このような患者に対するリハビリテーションの基本方針5)を立てる際に留意すべきこととして以下の点があるとわれわれは考えている.第1は,予後予測が困難なことが多いからこそ,疾患・障害の変化の方向についていくつかの可能性を予測して,その変化の節目で適切な方針の切り換えを行うことが必要であることである.
第2に,基本方針とは本来患者の了解を得て決定すべきものである.しかし悪性腫瘍の場合には患者に疾病について真実の説明がされていることが少ないため,基本方針を家族の了解のみで決定せざるをえない場合が多い.このような場合でも患者の人生観・価値観・心理的問題を常に正確に把握しようと努力し,たとえ真実の基本方針を説明できなくても,それをできるかぎり反映した説明をし,実現しうる目標の選択枝から患者自身が自己決定をしうるようにすることが重要である4).
ハイリスク・体力消耗状態における基本方針については既論文を参照いただくとして,本論文ではその具体的な例としてハイリスク・体力消耗状態を示す悪性腫瘍患者で,基本方針を立てリハビリテーション・プログラムを実施するうえで特に上記の第2点が重要であった2例を紹介する.
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