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はじめに
我々は最近,大学病院において従来からの運動障害を主症状とする患者群とは異なり,全身の体力低下を主症状とする患者の増加を経験している.この問題について,我々はリハビリテーション医学領域の新しい対象として捉え,これらをDeconditioning群と呼び,問題を提起して来た1,2).
しかし,このDeconditioning群という呼称については,厳密な定義を設けた訳ではなく,1967年に出版されたA Problem-oriennted Approach to Stroke Rehabilitationの20章3)の題名として用いられたDeconditioningがおそらくこの言葉を用いる動機になったように思われる.この章では,「Deconditioningは,長期にわたる不動によって起きる身体的,心理的な悪化の過程をいう一般的な用語である」と定義されている.
さらに,アメリカで最近出版されたリハ医学の教科書の中にも,General Deconditioning4)あるいはImmobilization Syndrome5)などという章が設けられており,リハ医学が不動による身体的な問題に対して一定の役割を持っていることを示しているように思われる.
しかし,現実に我々が感じている全身体力低下あるいは体力消耗状態の患者群は,不動だけでなく,疾患そのものも体力を消耗させるような牲質を持った重症な疾患であることが多い.そこで,従来からのDeconditioningという呼称は,やや軽症に傾きすぎているような観を免れ得ないとの論議も出て来た.
そこで,今回我々は,本特集の企画者である上田7)の定義にしたがって,この問題を考えてみたい.
上田によれば,先ず言葉の問題として,従来からのDeconditioningではなく,「重症ハイリスク疾患による全身体力消耗状態」とする.
さらに,基本的な考え方として,1)原因疾患が悪性腫瘍,重症臓器不全などのようなそのものが全身の体力を消耗させるものであること,2)(1)のような状態の継続によって廃用症候群が付加されているような場合,3)原疾患に対する治療までもが体力を消耗させているような場合をあげている.
本特集では,この定義が大変適切であり,我々もこのような患者群がリハ医学の新しい問題だと考えている.しかし,上田も述べるようにこのような状態を表す適切で簡単な言葉があれば望ましいと思われる.
また,従来からリハ医学が関わって来ている不動による体力消耗状態あるいはDeconditioningとよばれる本特集で扱われるよりは軽症の廃用症候群をどの様に扱い,区分すべきかなどの問題も新たに生じさせてしまったようにも思われる.今後の課題である.
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