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はじめに
「重症ハイリスク疾患による全身体力消耗状態」(以下,ハイリスク・体力消耗状態と略す)は,疾患レベルと障害レベルの特徴の二重規定からなる概念1)である.すなわち,疾患レベルの特徴を示す「重症ハイリスク」とは従来のリハビリテーション(以下,リハ)医療の場でいわれてきたリスクとは桁違いに高いもので,生命の危険と紙一重ともいうべき高度の危険をはらんだ状態であり,その原因疾患としては,癌や白血病・リンパ腫などの悪性腫瘍,および各種の重症臓器不全が多い.障害レベルの特徴である「体力消耗状態」とは,主たる機能障害が麻痺や拘縮などの運動に直結する障害ではなく,「体力」の著しい低下であることを示す.この体力消耗が主障害ということは,原因疾患自体が運動障害を起こしているのではなく,したがって歩行やADLも必ずしも動作自体が全くできないというのではなく,体力の著しい低下のために持久力が低下し,疲労が著しく,そのために実生活上では歩行やADLが行えないでいるという状態を指している.
この「ハイリスク・体力消耗状態」は近年のリハ対象患者の(疾病レベルにおける)重症化,(障害レベルにおける)重度化の傾向2)を最も先鋭に示すものであり,特に大学病院を中心にリハ医療の対象として急激に重要性を増しつつある3~8).例えば,東京大学医学部附属病院リハ部では4,7)このような患者は1977年には入院患者の3.2%,1983年は2.4%にすぎなかったが,1985年には6.1%とやや増加し,その後は1986年以来20~25%にも達している.
このような状態の患者が急激にリハの場面に登場してきた理由としては,悪性腫瘍,臓器不全などの重症疾患の治療が進歩し,依然としてリスクは高いものの,救命および生存の可能性が高まってきたことなど,多くの複合的要因が考えられるが,リハ的な背景としては以下の2点が特に重要である.まず,疾患レベルの特徴である「ハイリスク」状態に関連したこととして,リハ医が量的・質的に強化され,重症ハイリスク患者にも適切な医学的対処ができる態勢が整いつつあることである.第2にリハ医学が体力低下を障害として重視するようになってきたこと,また体力低下の予防と体力向上に向けたプログラムを探求しようとする気運が生まれてきたことである.この他にも廃用症候群の重要性や能力障害(disability)レベルへの直接的アプローチの重要性の再認識9,10)などもあげられる.以上のような背景,すなわちリハ医学の進歩があって初めてこのような状態が,リハ医療対象の新たな概念として提唱されるようになったということができよう.
しかしながら,なにぶん新しい対象であるため,現在はまだ試行錯誤の状態にある面が少なくない.また将来的には,「ハイリスク・体力消耗」のうちでも,各種の病態・障害にあわせてより細分化されたリハ・プログラムをつくる努力をしていかなければならないこともいうまでもない.
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