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はじめに
本誌では本年8月号に「廃用症候群へのアプローチ」の特集が組まれ,本号でも筋・骨の廃用がテーマとしてあげられている.このほかにも最近廃用症候群の重要性の再認識が強調されているが,その背景として考えられるのは,まず第1に,リハビリテーション医学において最も基本的な課題であるはずの廃用症候群の予防・改善について,従来のアプローチでは十分には防ぎ得ていなかったことへの反省があろう.この場合,褥瘡・拘縮のような顕在性の廃用症状に関してはかなり注意を払っても,症状が不顕性になればなるほど注意が不十分であったといえる.
骨萎縮は不顕性症状の代表ともいうべきもので,日常診療上は骨萎縮がX線で確認できるほどに進んでようやく判明するものであり,まして通常の理学的所見では診断できない.本稿の廃用性骨萎縮は脳卒中に限定して論じることになっているが,脳卒中の骨萎縮は特に患側上下肢の骨萎縮が骨折しやすさとの関連で臨床的に注目され,比較的早期から研究されている.しかしながら,これは麻痺との関連性など局所的廃用症状の視点からとらえられたものがほとんどで,先の論文1)でもすでに述べたように,全身の活動性低下による全身的廃用現象という視点からの検討は極めて少ない.しかし,脳卒中発作後比較的早期には不顕性の症状にとどまっていたとしても,以前から潜在性に存在していた加齢などによる骨萎縮を加速し,さらに一層の廃用が加わっていった場合,将来的には大腿骨頸部骨折や椎体の圧迫骨折などのような症状・障害を顕在化させてくる危険性が大きい.そして,この顕在化する時点とは骨萎縮が進行したときであり,そのときになってからその改善のためにアプローチすることは極めて難しい.リハビリテーションでは脳卒中発作後,その開始時期から将来的な社会的不利(handicap)の軽減,QOLの向上を念頭においてアプローチする2)が,機能障害レベルとしても骨萎縮のように顕在化しにくい症状に対しては将来的な障害を考えての予防的アプローチの視点が重要である.全身的活動性低下による骨萎縮は近年老人性骨萎縮で特に強調されるようになってきており,リハビリテーション医学の立場からも障害の長期的経過,障害者の加齢を考える上で重視すべき問題である.
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