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はじめに
歩行障害をきたす神経系障害の部位としては1)筋障害,2)神経筋接合障害,3)末梢神経障害,4)脊髄障害,5)脳障害に分類される.
脳障害による歩行障害は,
1)基底核障害:運動のプログラミングの障害(フィード・フォワード障害)や姿勢反射障害など.
2)小脳障害:大脳・小脳連関の障害(プログラミングの障害),求心性入力の障害(フィード・バックの障害).
3)前庭障害:前庭器官への入力およびその反射制御の障害など
4)感覚系障害:四肢躯幹の末梢部よりの深部感覚などの体性感覚情報の大脳感覚野への求心路の障害など.
5)錐体路障害:大脳運動野より発する錐体路の障害など.
6)連合野障害:頭頂葉性失行や前頭葉性失行などの運動のプログラミングの障害,失認・記憶の障害に基づく運動障害など.
7)脳幹網様体など:動作の動機づけの障害や意欲の障害など,である.
これらの脳障害による,歩行動作制御過程をさらにまとめると,1)運動の動機づけやプログラム形成過程までの障害,2)姿勢反射統御中枢の障害,3)求心性入力の障害,4)遠心性出力の障害などにわけられる.
歩行開始には歩行開始のtriggerが必要であるが,一度歩行が開始されると,歩行の動作は意識過程にのぼらず,遠心性出力→動作→求心性入力→反射中枢→遠心性出力→……をくりかえす.しかし脳の一部の障害により歩行の自動性が失われると,種々の代償過程が働く.歩行動作を観察する時には,脳障害による直接的な脱落現象と代償現象がまとめて出現していることを念頭におくことは重要である.
まず代表的な症例の歩行動作を観察し,歩行障害の特徴を把握することを試みる.基底核障害としてパーキンソン病,小脳障害として脊髄小脳変性症の歩行を呈示する.歩行の把握方法として,臨床的観察と共に,視覚により直接的に訴えることを目的として,カメラを用いて歩行時の側面像および,前後像を撮影し,その写真を検討する.さらに約10mの紙を床にはりつけ,墨汁に浸した靴下をはかせ,歩行させ,歩行足跡を記録した.歩行時の筋電図学的解析には表面筋電図を用いて両下肢筋電図を記録した.
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