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はじめに
障害者の中でも,一部の盲人については,わが国ではすでに室町時代には,平家琵琶の演奏技術をもとに,いわゆる四官七十三刻の階級制度が設けられていた.徳川時代に至っては,盲人のみの自治組織である「当道座」が強固に打ちたてられるとともに,自治による行政的,司法的機構も概ね官費または藩費補給の下に全国的に運営され,独占的職業である管弦鍼按のほか,盲人に対する特別の官金貸付業の特許等,種々慈恵的な手厚い保護が加えられた.
しかし,このように数百年来行われてきた当道座等の盲人保護の慣行は,1871年に明治政府によって廃止され,これまでほとんど盲人の専業とされてきた鍼按・音曲の教師等の特権も認められなくなった1).
その結果,わが国において障害者を対象とした唯一とも云うべき職業援護対策は消滅し,1923年の関東大震災によって生じた身体障害者のために,政府の交付金を受け設立された,財団法人同潤会の啓成社による職業訓練等を除き,身体障害者対策は常に正面から取り上げられる機会もなく,単に生活困窮者として一般的な救貧体系の中に埋没して顧みられなかった2).
欧米諸国においても事情は似たようなものであり,20世紀はじめまでの障害者の職業リハビリテーションをめぐる動きとしては,民間団体による盲人,ろう者および肢体不自由者等,特定のグループを対象とした保護工場の設立がわずかに注目される程度で,国の施策には見るべきものはほとんどなかった.
しかし,例外は傷痍軍人対策である.欧米諸国では,第一次世界大戦により発生した多数の傷痍軍人の職業復帰を援助するため,1920年前後より相次いで法制度が整備されたが,それらがやがては一般の障害者対策にも活用されることとなった.そうした意味では,近代的な職業リハビリテーションの基盤は,第一次世界大戦を契機として形成されたと云えるわけである.
本稿では,欧米諸国における動向をも踏まえながら,第一次世界大戦以降のわが国における近代的職業リハビリテーション施策の展開を概観することとしたい.
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