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はじめに
現在わが国で職業リハビリテーションにかかわる関係機関・施設としては,評価・判定を行う「障害者更生相談所」,「心身障害者職業センター」,職業訓練等を行う「身体障害者職業訓練校」,「労災リハビリテーション作業所」,「障害者更生援護施設(授産施設等)」,職業教育を行う「盲およびろう学校」等,ならびに職業紹介を行う公共職業安定所,等がある.
更生相談所,職業センターおよび職業安定所を除く,わが国の職業リハビリテーション施設等を利用する障害者数は,年間7~8万人,そのために要する年間経費は数百億円以上にのぼるものと思われる.
これらの施設等が,障害者に対してサービスを提供することによってもたらされる経済的効果についてこれまでわが国で公にされた文献としてはおそらく,昭和42年に出された「リハビリテーション講座」第1巻で松本征二氏が,「厚生省社会局の示すところによれば,国立視力障害センターの入所者は,その約70%が入所前には最低生活を保障する必要があるのであるが,2年ないし5年のリハビリテーションを受けた後には,ほとんど全部の人が自立に成功している.もしこれらの人々がリハビリテーションを受けず,従来通りの生活を行うならば,年間約2億円の生活保証費がかかるのだが,この費用が不要になったばりかでなく,卒業生の中には既に税金のにない手になった者もすくなからず数えられるに至ったのである」1)と言及されたものだけであろう.
これはサービスの経済的効果を裏付ける統計的根拠が必ずしも明らかではなく,資料的にはかなり不十分なものではあるが,わが国の障害者福祉行政当局が,リハビリテーション・サービスについて財政学的分析を試みたものとして注目に値しえよう.
小島蓉子氏は,「わが国では,リハビリテーション政策の財政学評価の努力がいまだあまりなされていない.わが国でもリハビリテーションの実績を国民の批判に問う上からも,今後の研究課題として追求していく必要がある」2)と指摘した上で,米国のR.W. Conleyの「職業リハビリテーションの経済学」等を紹介している.
Conleyが1965年に発表したこの論文は,1959年から1963年にかけて「職業リハビリテーション法」に基づいて障害者に提供されるサービスによってもたれた経済的効果を,原価利益分析(Cost-Benefit Analysis)注1)したもので3),職業リハビリテーション・サービスを財政学的に正当化する試みとして先駆的労作である.
その後,米国では相次いで職業リハビリテーション・サービスに関して原価利益分析を用いた研究報告が出されているが,毎年保健・教育・福祉省(HEW)から大統領および連邦議会に提出される報告書でも,職業リハビリテーション・サービスの経済的効果についてふれられている.以下では,1976年度の同報告書(「1973年改正リハビリテーション法運用関連連邦活動報告書」4))についてその内容を具体的に紹介するとともに,原価利益分析の限界と課題についてもあわせてふれることにしたい.
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