Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
麻痺性構音障害(dysarthria)は,神経・筋系の病変による運動障害に起因することばの障害と定義される.ここでいう“ことば”は英語の“speech”に相当するもので,いわばことばの「音」を意味する.従ってdysarthriaには,ことばの「意味・内容」の障害すなわち“language”の障害は含まれていない.
ことばを作る運動,すなわち構音はヒトに固有の機能であって大脳の知的機能と密接な関連を持ち,言語の習得と並行して生後の学習によって形成される熟練運動である.
口から出てくることばは,各言語のもつ抽象的,離散的な記号体系の時系列を,構音運動によって連続的な音波として実現したものと考えることができる.
構音運動によることばの生成のメカニズムは,模式的にみれば末梢レベルと中枢レベルに分けられる.このうち末梢レベルは,さらに次の3つの過程,すなわちことばの音のエネルギー源として呼気を送り出す過程(呼気調節),呼気流のエネルギーを喉頭で音響エネルギーに変換してことばの音源をつくる過程(発声),最終的な音声信号の完成および外界への放射の過程(狭義の構音)に分けることができる(図1).これらの過程はすべて中枢神経系の制御のもとにあり,複数の器官が関与し,しかも時間的空間的に高度の協調性をもった複雑な統合運動として進行していく1).
Dysarthriaとは,まさにこのような運動制御機構の破綻によることばの障害であるが,厳密に考えると必ずしも“麻痺”だけによって発症するものではない.この見地から,最近では麻痺性構音障害という呼称を排して,運動性あるいは運動障害性構音障害(motor speech disorders)として一括しようという傾向もあるが2),本稿では従来の慣習に従って麻痺性構音障害として論議をすゝめることにしたい.
いずれにしてもことばの障害は,人間的生活の基本として重要な知的コミュニケーションの障害であり,そのリハビリテーションにおいては単にことばの次元に止まらず,コミュニケーションそのものに視点をあてて考えていく必要があることを予め指摘しておきたい.
Copyright © 1987, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.