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はじめに
麻痺性(運動障害性)構音障害dysarthriaとは,発声発語運動の実行過程に関与する神経・筋系の病変によっておこる話しことば(speech)の異常をいう.発声発語の実行過程には,大脳の運動皮質から効果器である筋肉に至る種々のレベルの活動が関与し,この系のどの段階に病変が存在するかによって症状は異なる.Darleyら1)は麻痺性構音障害を病変部位によって表1のように整理している.
麻痺性構音障害をきたす神経疾患の鑑別は,一般的な神経学的検査法や筋電図,筋生検などの臨床検査に基づいて行われる.一方,話しことばの上にもそれぞれの神経疾患による特徴が認められることは,従来からよく知られている.たとえば,話しことばの全般的な印象から仮性球麻痺では“ろれつがまわらない”,小脳疾患では“断綴性言語(scanning speech)”,“bradylalia”,“slurred speech”などがあげられてきた.しかしながら,これらの用語の内容は研究者によって必ずしも一致しているとはいえず,また各疾患の話しことばの特徴を記述するには不十分である.そのため最近は聴覚印象に基づく,より分析的な評価が行われている2~5).表2は,臨床上遭遇することの比較的多い4つの疾患における話しことばの特徴を示している9).
リハビリテーションの場で最も多くみられるタイプは脳血管障害後におきた痙性麻痺性構音障害spastic dysarthriaである.最近の調査では,成人脳血管障害者1395例のうち27.5%に痙性麻痺性構音障害が認められたと報告されている10).一側性の脳損傷では麻痺性構音障害は一般に軽度で構音の誤りは子音の歪みが認められる程度である.一方,発作を繰り返し両側に脳損傷がある症例では,母音や子音の歪みや省略,開鼻声,声の障害が認められ,同時に発話速度は遅い,などの症状を呈し,典型的な仮性球麻痺タイプとなることが多い.
脳血管障害後おきた麻痺性構音障害では,他のコミュニケーション障害と重複する場合も少なくない.表3は東京都養育院附属病院言語聴覚科における1年間の統計である.当院でみた麻痺性構音障害(90%以上が脳血管障害によるもの)のうち,合併する言語障害のないものは約6割であり,のこり4割は他のコミュニケーション障害を合せ持っている.合併するコミュニケーション障害としては,失語症,全般的精神活動低下に伴うコミュニケーション障害,失語失行症がある.
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