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はじめに
癌の末期や,肝・腎不全,呼吸・循環不全,DICなどは,重症ハイリスク疾患と考えられる.しかし,数年前までは,リハビリテーション科では,これらの疾患,あるいは麻痺との合併の患者をみることは少なかった.しかし,近年,内科的・外科的治療の進歩により,重篤な疾患でも,延命効果が得られ,なかには,治癒する疾患もみられるようになってきた.このような医療の進歩に伴い,原疾患は改善するが,種々の障害を残す場合も多くみられ,他科の医師のリハへの認識も深まり,重症ハイリスク患者の早期からのリハが増えていると考えられる.またリハビリ経過中に患者の状態の悪化により,一時リハが中断することもよくあり,われわれの大学でも,入院患者の約25%がベッドサイドでリハが行われている現状である.しかし,重症ハイリスク患者のリハビリテーションは,リハスタッフの人的資源に限りがある現状では,すべての患者に一律に,同じリハビリを行うことは,現実的ではないと考えられる.その為には,先ず原疾患の予後を正しく知る必要がある.例えば癌患者のリハビリにおいて3)は,癌という診断だけではなく,大きさや組織型,転移の有無,年齢,治療法,合併症の有無や,検査所見に加え,身体所見と全身的な体力,さらに精神状態の把握も必要である.心疾患のリハビリ2)には,その病態と心機能(NYHAの分類)の他に,姿勢やADLと,心拍出量や代謝との関係などを知っておく必要がある(表1).さらに,個々の患者の障害およびニードを知った上で,リハビリで何ができるかを検討する.重症ハイリスク患者に早期よりリハビリを行う目的は,第1に,廃用症候群1,4)の予防である(表2).良肢位の保持や,体位変換は看護サイドの重要な任務であるが,痙性の強い場合の可動域維持等は,リハスタッフの関与がないとむつかしい.早期の四肢の自動運動や,坐位保持,嚥下訓練,排泄訓練なども,看護婦と一緒に,リハスタッフの関与でスムースにゆくと考えられる.
第2に,精神的サポートを行い,気分の転換をはかり,疾患や障害の受容を助けることである.患者の病気への不安・恐怖心を和らげ,疾患を受け入れ,それに対して対処できるよう援助してゆくことである.
第3に疼痛やスパズムに対して,温熱療法などの理学療法や神経ブロックを併用して緩和させることである.
第4にgeneral conditioning exerciseにより,機能や体力の回復を目指し,その時々で,何をしてあげられるか,何がなされるべきかをよく考えて実行する.
これらの重症ハイリスク患者の早期リハを行う場合,リスク管理を厳重に行うことが非常に大切である.患者の状態が,刻一刻と変化するため,vital signsや尿量,検査所見や自覚症状,患者の気分などに細かく注意しながら,リハを行わなければ,逆にリハをやったがために,症状を悪化させたりすることが生じてしまう.
原疾患が,癌などで早いスピードで悪化してゆき,運動療法が逆に体力の消耗を招くような場合は,体位変換・良肢位保持と精神的サポートが看護婦を中心に行われることとなる,その際には,リハ医の行う看護婦への指導が大切である.ハイリスク患者であっても急激な悪化や改善がなく,比較的steadyな場合は,持っている機能の維持が,リハの目的となり,これも看護婦が中心となって行われることになろう.
重症ハイリスク患者であっても,その危機を脱した段階では,リスクが少くなり,積極的な運動療法が行える状態となる.
初診時に,重症ハイリスク患者が,downhillの経過をとるのか,改善してゆくのかは速断できないことがしばしばある.そのような場合には,経過を詳細にみながら,どの時点で積極的なリハを行うか,維持的なリハにとどめておくかを随時判断する必要がある.
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