Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに――病院から地域へ,そして離島へ
10年前,脳卒中患者の会に頼まれ,通所訓練指導を担当したことによって,在宅生活の難しさや,病院でのリハビリテーションだけでは全ての問題が解決しないこと,永い療養生活の中でいろいろな変化が起こることなどを老人から教えられた.そして,長崎における手づくりの地域リハビリテーション活動が始まった.顧みるに,地域リハビリテーション活動は病院におけるリハビリテーションのあり方に大きな影響を与え続けてきた.
昭和58年より長崎県の委託事業で本格的に離島を訪れるようになり,現在,都市部のリハビリテーションから郡部や辺地におけるリハビリテーションのあり方を模索中である.
離島の豊な自然と人情は島を訪れる者にやすらぎを与えてくれる.しかし,障害を抱える老人にとって,その自然は厳しい環境となっている.北風を避けるべく背丈以上に積み上げられた石垣,家に入ると土間があり障子のすき間から冷たい北風が入ってくる,コタツはあってもストーブを置かない質素なたたずまい.生れた時から自然は変らない,その中で生きてきた彼等,障害を背負った今でもその自然とともにある.寒いから重ね着をする,これでは動きようもなかろうと思いつつ,入ってくる風の冷たさに布団をめくる気が進まない.
入院中の患者に,こんな生活環境を予測した治療ができたであろうか.家屋改造の指導・家庭での訓練指導・家族のあり方,指導した内容のどれを取り上げても,この環境に通用しそうもない.生きる力強さは都会人の誰よりも持っていたであろう彼等が,海辺のそして山あいの小さな部落でひっそり生活している.
“離島でリハビリテーションを始める”と長崎を離れた親友のPTがいる.まわりの誰もが彼の勇気を賞賛しながら,後に続く後輩は少ない.専門スタッフの確保は,離島医療の今でも解決できない最大の悩みである.“病院を建てて,医者をつれてくる!”とは,いつの時代も変らない町村長の選挙公約である.住民は都市と同じレベルの医療を求め続けている.
長崎における離島医療の歴史の中で,リハビリテーションは今,始まったばかりである.先輩達の成果を基に,どこでも誰でも治療の受けられる体制をどのようにつくってゆくか,離島の実態を報告しつつ模索の足どりを紹介する.
Copyright © 1986, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.