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はじめに
与えられたテーマはリハビリテーションにおける神経心理学の臨床応用であるが,著者はリハビリテーションに携わる者でなく,神経心理学とリハビリテーションに関する全般的問題は本特集の他の論文において扱かわれると思われるので,ここでは“機能系の再編成”(reorganization of functional systems)という神経心理学的立場から,高次皮質機能(複雑な精神活動)の障害の回復とリハビリテーションに関する研究,実践を行ったA.R. Luriaの理論を述べ,知的活動(構成的思考)の障害のリハビリテーションに関するLuria学派の方法を紹介する.また機能障害の神経心理学的分析,評価は“機能系の再編成”による機能回復とリハビリテーションの出発点であるが,機能系の概念,すなわち系(システム)的力動的局在論の立場をとり入れた,われわれの痴呆の診断,評価のための検査法試案も紹介したい.
神経系損傷における機能障害の回復機序に関しては様様な説明がなされている1,2).急性期にみられる機能回復には脳循環が大きく関与した非損傷部にまで及んだ機能不全(Diaschisisや保護抑制,超限抑制など)の改善が大きな意義をもっている.亜急性期,慢性期にわたる機能回復に関しては,その形態的基盤として神経突起の発芽(Sprouting)が考えられているが,中枢神経系損傷においてはその意義は疑問視されている.またunmasking,denevation hypersensitivity,対側半球への機能の転移,脳機能の冗長性による代償などの可能性も指摘されている.これらはいわば障害前の機能と同じ心理学的構造を保った形での機能回復の説明であるが,高次皮質機能(複雑な精神活動)の長期にわたる回復に関しては,“機能系の再編成”という力動的モデルが提唱されている.この“機能系の再編成”という力動的モデルは,完全に破壊された神経組織は再生されないにもかかわらず機能回復がみられること,そしてそれは運動,感覚のような要素的機能よりもより高次で複雑な精神活動において著明であることをうまく説明しうるモデルである.この“機能系の再編成”による機能回復をAnokhinの機能系の概念3)をとり入れた系的力動的局在論の立場から説明し,それに基づいて機能障害のリハビリテーションの研究,実践を行ったLuriaの理論4,5)を紹介したい.
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