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はじめに
前頭葉機能障害の神経心理学的検査法を紹介するにあたり,前頭葉症状とその評価に関し,まず基本的なことを述べておく.
前頭葉,特に前頭前野は最大の“連合皮質”であり,他の全ての脳領域との線維連絡を有している.したがって,前頭葉の損傷はあらゆる高次神経・精神機能に何等かの障害的影響を及ぼすといってよく,そこで生じる症状は,例えば言語機能,記憶機能,遂行機能といったような各機能領域に特異的なものというより,それらの領域を越えた,いわば“超”機能領域的とでもいうべき特徴をもっている.また,前頭葉損傷による症状はより低次の神経症状や認知,行為などのより高次心理機能の障害を問わず,各機能階層にまたがる共通項が存在するようであることも指摘されている.つまり,前頭葉症状は,“何々機能の障害”として表現されるよりも,種々の機能領域に共通のいわば“障害の形式”として取り出されるべきものであることを強調しておく4).
また,検査結果の評価にあたり留意すべきことは,前頭葉機能は前頭葉機能検査の結果のみでは評価しえないことである.前頭葉機能検査は構造の複雑なものが多く,注意,知覚,記憶,言語などの他の機能が保たれていないと,しばしば検査そのものの施行が困難となり,また,当然それらの機能の障害は検査成績に影響する.前頭葉機能の評価に際し,前頭葉以外(後部脳)の神経心理学的機能の検査結果との比較が不可欠な所以である.筆者らはWAIS-Rを併せ行い,WAIS-RでのIQが低くない場合にのみ,前頭葉機能検査の成績は意味をもつと考えている.
以下では,これまでの検討の結果,筆者らが暫定的,便宜的に区別している前頭葉症状の4つの“障害の形式”とその検査法,および筆者らが日本語版を開発中であるBehavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome(BADS;遂行機能障害症候群の行動評価法14))を紹介する12).
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