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はじめに
プライマリ・ケアという名称もリハビリテーションと同様に適切な訳語のないまま英語がそのまま使用されて来ている.その背景には適切な日木語訳が存在せず,包括する内容が広汎であり,多岐にわたっているということがあげられよう.しかし,このようにあいまいであっても,次第に広く使用され,一般の関心が高まって来ているのは共に社会的必要度が高いためだと思われる.
リハビリテーションの語源や医学領域でこの言葉が使用された経過1~3)は本誌の読者であれば十分知っておられることと思われるので割愛し,プライマリ・ケアについて少し触れてみたい.ウェブスター英語国際辞典によれば4)primaryという言葉には4種類の同意語をあげている.すなわち,第1にはinitial「最初の,初期の」,第2にchief,principal「最高の,主要な」,第3にdirect「直接の,一直線の」そして第4にOriginal,independent「独創的な」という意味である.
したがってprimary careの意味するものは最初に行う主要な医療であり,直接的に行われる独創的で履高の医療ということになる.
歴史的にみるとプライマリ・ケアという言葉を初めて使用したのは英国のDowsonであり1920年に発表されたDowson報告書の中にみられる5).しかし広く使用されるようになったのは1966年のMillis報告書(米国)以降といわれている6).その後アメリカでは1969年に「家庭医学」が専門医として公認され(Amcrican Board of Family Practice),アメリカにおけるプライマリ・ケアの内容を明確にしてきている7).またWHOでも1978年には主として世界的な疾病予防および健康増進の見地からソ連のAlma-Ataでプライマリ・ヘルス・ケアを提唱した.しかしWHOのプライマリ・ヘルス・ケアと英国やアメリカで行われているプライマリ・ケアとは必ずしも同一ではなく,このことも日本で用いられるプライマリ・ケアという言葉の内容をあいまいにしている一因と思われる.
日本でプライマリ・ケアという言葉が紹介されたのは1972年以降であり,1973年には厚生大臣の諮問機閧である医師研修審議会がプライマリ・ケアを中心とした卒後教育に関しての建議書を提出している8).日野原重明らは1975年より毎年1回「医療と教育に関する国際セミナー」を主催し,プライマリ・ケアの啓蒙と実践のために精力的に活動している9~11).そして1978年には日本プライマリ・ケア学会が発足し,現在に至っている.
著者の所属する川崎医科大学は大学医学部の講座としてプライマリ・ケア部門を有する唯一の医科大学であり,学園主脳部の判断と父兄の要請から1979年に柴田進学長を団長として10数名の団員を引率し,イギリスとアメリカにプライマリ・ケアの視察団を派遣.次いで1980,1981年に各2名教員研修生をハーバード大学医学部へ送り12),1981年4月より総合診療部名称の下でプライマリ・ケアの実践を開始している13,14).
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