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はじめに
現在,リハビリテーション(以下,リハビリと略す)医学は,治療,予防医学につづく第三の医学として確立されつつあるとはいえ,内科や外科のような古い歴史をもつ臨床分野にくらべて,臨床面でも研究面でも,確固たる基盤がうちたてられたというところまでには至っていない.このようなときに,リハビリ医学における研究について論ずることは至難のことといえる.一方,他の医学の分野では,いまだかつてやっていない研究分野もリハビリ医学領域に多々あることも事実であるから,ここに,今まで行なわれてきたリハビリ医学分野での研究と今後の課題など私見をまじえてのべる.
リハビリ医学の研究を論ずることはリハビリ医学そのものを論ずるにひとしく,リハビリ医学が他の医学の分野と異なる特殊性を認識する必要がある.その第一は,リハビリ医学が疾患の診断と治療を行なうのみならず,疾患の障害を対象とすることである.障害といっても身体的な神経筋骨格系の障害のみならず,精神心理的な高次中枢機能の問題まで含むものである.
第二には,リハビリ医学が一般に医学的リハビリと,職業・社会的リハビリとに分けられるように,患者自身の障害のみならず,患者が社会の中で人間として生きていける「人間性の復権」を終局の目的としていることを忘れてはならない.そのために,医療政策,福祉制度などが関与せざるを得ないが,リハビリ医学における研究はあくまで医学的立場に焦点をあてて行なわれるべきであって,社会的リハビリに関する研究もつねに医療と関連していなければ意味がなくなる.
リハビリ医学の第三の特微は,すでにのべたように「障害」が対象となるために,今まで小児科,内科,外科,整形外科などの専門科をたて割とすれば,リハビリ医学は「障害学」という横割りで各科に共通する問題点をとらえることになろう.よって,リハビリ医学の研究を行なう場合関連各科と共通する領域があるのは当然といえる.そして,リハビリ医学での研究が今までの臨床,基礎医学と隔絶したものではなく,これらと密接な関連をもってなされなければならない.もっと端的にいうなら,リハビリ医学の研究はこれから全く新らしい分野をきりひらく一方,他の臨床,基礎医学ですでに完成した方法論を「障害学」のために応用することもでき,その研究のテーマは無限に広がっているといっても過言ではあるまい.
第四には,リハビリ医療ではリハビリ医以外に理学療法士,作業療法士,言語療法士などの医療専門職がチームをつくり,円滑な協力があってはじめてリハビリプログラムの遂行ができる.このことは,医師を含めた専門職種間での仕事の共通領域が多くあるということになる.そのために,研究そのものも,リハビリチーム全員の協力によってはじめて可能となる.しかしながら,チームでの個々の職種はそれぞれ独自の専門分野をもっており,大いにその特殊性をいかした研究を開発促進する必要がある.ここで大切なことは,リハビリ医,理学療法士,作業療法士,言語療法士などが独自の分野で研究を遂行するとき,それぞれの分野からの協力体勢が必要不可欠であり,それなくしては立派な業績を期待することができない.このようなときリハビリ医のはたすべき役割は重要で,医師は医師としての研究をすすめる一方,他のリハビリ専門職種のために臨床的なデータを得やすいような状況をつくる努力が要求される.そして,リハビリ医学においては,医師は医師として,理学療法士は理学療法士として自分の持ち分をわきまえてリハビリ医学の発展に供する研究を行なうべきであろう.
もっと具体的には,リハビリ医は医師でなければできない研究を行なうべきであって,日常生活動作や運動療法などの個々の手技についての研究は,しかるべき専門職種の研究分野として促進するよう協力する.また,医師は大脳生理,電気生理学など,他の専門職種が法的にできない分野を分担し,彼らの分野での業績に寄与すべきであろう.
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