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はじめに
リハビリテーション医学の目的が,障害者の生物学的機能障害の回復をはかるだけのものではなく,その全人間的能力の回復を追求するものであることは今日広く認識されている27).脳卒中のリハビリテーション(以下リハと略す)も,もとより例外ではなく,運動機能はもとより,行動学的・心理学的な面も含んだ総合的な接近が要求される.そして後者の評価に際しては,器質的影響と二次的感情反応の変化の二種の要因を考慮に入れる必要がある.この二つの要因は相互に影響し合い各々の相対的強さは時間とともに変化する.またBenton2)は脳障害者のリハ達成度を決定する因子として三つのものを挙げている.すなわち,一つは脳に残された可塑性であり,次は学習能力であり,三つめは患者の示す動機である.いずれも独立したものではなく,相互に依存し合っている概念である.脳卒中患者の行動学的・心理学的な評価は,このような複合体としての患者の特性を総合的に評価することが要求される.本稿ではリハ遂行上重要な因子の一つである動機をとりあげ,器質的脳損傷との関連の中で分析したいと思う.またそれが患者のおかれた状況によってどのように変わるかも考えたい.それによって脳血管障害の総合的評価に寄与できるものがあればと願っている.
リハにおける動機の重要性については広く論じられるものの,なお客観的科学的研究は少ない6).Vroomはリハの達成度(Performance,P)は患者の残存機能(Ability,A)と動機(Motive,M)の関数であるといっている.すなわち,P=∫(AxM)で示される16).ここにおいてはリハにおける動機の重要性がさらに強調されている.心理学においては動機は,心的に静止状態にある者を行動に駆り立てる作用因であると定義されている.そして,この心的な動きの過程を全体として動機ずけ(Motivation)と呼んでいる14).行動を始発させた動機は,またその行動を維持し続け,一定の方向に導いて目的を終結させる力も持っている15).動機には数多くの種類があり,自然的要求から社会的動機まで数えあげればきりがない17).リハにおいて対象となる動機は意志的動機であり,これをLewinは準欲求(Quasi-Bedürfnis)と呼んだ13).またHoppe,Fは個人がある課題に当面したときに立てる達成見込のうち,それまでの成果を基にして設定する主観的準要求の高さを要求水準(level of aspiration)と称した10).要求水準は,動機を構成する一要素であり,動機そのものではないが,自己の障害克服という課題に当面した患者の全貌をうかがう重要な手掛りを与えてくれる.本稿では要求水準を実験的にテストにより定量化し,これを脳卒中片麻痺患者と老人ホームに住む健康な老人に施行し,両者の成績を比較し,脳卒中患者のリハの場における動機や行動特性について論じたい.なお,上記二群について,同時にロールシャッハ・テストも施行したが,この結果については別稿(第2報)において報告する.
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