Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
第1報において16),脳血管障害者と老人ホーム在住の健康老人に,要求水準テストを施行した結果を示した.これにより片麻痺患者の要求水準は,老人ホーム在住者のそれよりも有意に高いことが明らかになった.片麻痺患者のうちでも,高年者(60歳以上)と失認を呈する患者群(半側無視を共通症状とする右頭頂葉損傷者)の要求水準がきわだって他の者より高いという結果も得られた.このことは片麻痺患者の回復への意欲が切実なものであり,また障害と加齢が加わった時認知能力の低下が起こることを示すものである.すなわち,高年者や失認症状を呈する者が自己の障害について,限界以上に高い回復水準に自分の希望をかかげていて,このことが障害受容を認知レベルにおいてさまたげることを疑わせた.とくに右半球損傷に基づく失認群の要求水準の高さは異常で,認知障害が従来考えられていたよりも広く深くおよんでいると考えねばならぬことを示唆しうると思われた.すなわち,失認群においては,自己の運動能力の障害を,時間や空間の中で正確に把握する能力,さらに自我を統合し再構成する機能にまで障害はおよんでいると考えざるを得ない疑いがもたれた.今回は,上記の片麻痺患者と対照老人群にロールシャッハ・テスト(以下ロ・テストと略す)を施行し,要求水準テストによって得られた所見の背後にある片麻痺患者の心理特性をさらに具体的なものにしようと試みた.とくに半側無視についてはその感情面,人格変化面につき文献的考察も加え,今後の脳血管障害のリハビリテーション(以下リハと略す)へ寄与することがでぎればと願っている.
対象者は第1報と同様であり,対照群は老人ホーム在住者25名で,患者は脳血管障害による片麻痺患者30名で,心理テストに耐えうる知能と言語機能を有し,その原因疾患を高血圧性脳出血と脳梗塞に限定した.患者30名を次の五つの基準により類別し,そのおのおのをそれぞれの群内での口・テストの採点結果と対比検討した.五つの類別基準は,Ⅰ群;半側無視の症状を示すか否かによって失認群と非失認群に分け,Ⅱ群;60歳以上の高年者であるか否か,Ⅲ群;下肢の回復段階がBrunnstrom法でStageⅢ以下の低機能であるか否か,Ⅳ群;損傷半球の左右別,Ⅴ群;洛東病院でリハを開始する以前に正規のリハの経験の有りやなし,である.なおロ・テストは個別法で行い,図版はスイス原版を使用した.採点法はKlopfer-片口法により10),一部 Fischer-Cleveland の採点項目も使用した.また Piotrowski の organic signについても検討した.
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.