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I.はじめに
われわれが一つの課題に直面した場合,つねにそれに対して要求しまたは期待をもつものである。そしてこの要求または期待は,われわれの行動の全過程において,刻々に変化しうるものでもある。そのときにおける次回の固有の作業への要求,期待あるいは目標設定の全体を,そのときにおけるその人の要求水準という。この概念は,F. Hoppeによつて初めて実験心理学に導入せられ,Demboによつて紹介された。Hoppeによれば,目標を達成して,それに対応する要求の満足と緊張の解消を生ずる成功体験であろうとまた失敗体験であろうと,そのいずれも作業成績の客観的な成績の良し悪しには依存せず,要求水準の高さに依存している。同一成績であつても,そのときの要求水準の高さによつて,あるときは成功として,またあるときには失敗として体験される。一般に要求水準が存在しない場合には,作業成績はなんら固有の成功,失敗体験を生ぜしめるものではない。
できるだけ高い要求水準で成功しようとする方向の力を仮りに正の方向の力とすると,なるべく失敗を回避しようとする負の方向の力とは,通常相互に反対の方向を意味するものであるが,いずれも自我水準をできるだけ高く保持しようとする力であり,元来は同一の力学的根本傾向である。清野は,源流を同じくするこの二つの力の衝突から導かれる典型的な葛藤事態が,要求水準移動の種類,方向を決定する根本事態であるとしているが,さらにDemboは,上記正負の二要求のほかに要求水準を次回に達せらるべき作業水準にできるだけ近づけようとする要求があり,以上3種の要求により,要求水準の移動が規定される,としている。J. D. Frankも最低目標,現実目標,希望目標の差をあげて,これらがおのおの,失敗を避けようとする傾向,できるだけ低い目標を選ぼうとする傾向,できるだけ高い目標を選ぼうとする傾向の3つの目標設定に対応するものであると考えた。
この論文においては,森田神経質症の診断のもとに,森田式入院治療を受けた38名の患者の人院時,起床時,退院時の各時期における要求水準の変化を観察し,考察した。
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