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はじめに
現在の身体障害者授産施設では原則として‘精神病患者’は対象外と規定されているが,身体に障害がある者であれば一時的に精神病院に入院したことがあっても委託措置の対象となりうる.
昭和40年にこうしたケースが1名,横浜市より委託されたが,不幸にして約3か月後にはノイローゼが再発してもとの病院にもどすことになってしまった.精神病患者に対する職業リハビリテーションサービスの必要性,およびサービス提供にあたって留意すべき点,特に病院との密接なコンタクトを保つことの必要性などについて,短期間ではあったが,このケースをとおして私たちはいろいろ学ばされたものである.
昭和42年4月に嘱託医として依頼したM医師が経営するS病院にたまたま精神科があるが,同医師との何度かの話し合いをとおして,病状が安定した精神病患者の作業療法の一貫として,当所でこうした患者に対する院外実習制度を試験的に始めてみようということに話が決まった.
とりあえずはテスト・ケースとして昭和43年1月より3名を1組として3週間にわたって実習を行なうことになった.当時当所にはダンボール製品加工,機械部品加工,電機部品加工の3生産課があったので,この実習は1週間ずつ各課をまわすというようにプログラムが組まれた.3週間の実習期間を終了した時点でS病院よりの院外実習生が当所での実習継続を望み,かつ当所の作業指導員もそれが適当であると判断した場合は正式に実習生として受け入れることとし,同年1月29日より3月23日まで3回にわたって計9名についてテストを行なった.これらのテストケースのうち4名は前述した条件を満たすものと判断されたので,この4名を昭和43年4月1日付けで正式に実習生として採用したのである.
実習実施にあたっての問題点の1つはS病院から当所まで片道およそ2kmあるが,バスなどの交通機関がないため徒歩通勤以外に通勤手段がないということであった.実習生の通勤にあたって病院側から付添職員は出ないので,当所までの往復途上での安全は彼ら自らがはからなければならないわけである.
暫定的な処置として実習生のリーダーを決めそのリーダーの統率のもとに通勤するという方法がとられたが,この2年間1件の事故(無断帰宅)を除いてはほとんど事故は起こっていない.
しかし,こうした好成績をおさめたとはいえ,この通勤方法には再検討を要する面もあることは率直に認めなければならないであろう.
もう1つの大きな問題は当所で実習中作業場で事故が発生した場合の補償である.当所の機械設備はきわめて限られているため大けがをするような事故が起こることはまず考えられないが,万一誤ってけがをした場合労災の対象外なので,補償をどうするかが大きな問題となろう.
かかる危険率を考慮してもなおこうした院外実習制度を実施することに意味があるのか,といぶかる人もあろうが,20数年にわたって欧米で行なわれてきた精神病患者に対するこうしたサービスが,彼らの社会復帰を促進するうえで成し遂げた成果を見聞するにつけ,この制度がより本格的にとりあげられるに値するものであると私たちは確信している.
昭和43年4月1日に正式に院外実習制度を採用して以来,昭和45年3月31日現在までの間に当所がS病院より受け入れた実習生の延べ人数は30名であった.
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