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はじめに
心理リハビリテーションというのは,自己の主体的活動としての「動作」を,心理学的立場と方法論から追求し,それをさまざまな脳性の障害をもつ成人や児童の臨床に応用することを目的とした,一連の学問的研究であるということができる.心理学的立場と方法論からと述べたが,この研究の拡がりは正しくは人間学的な立場からというべき,より広い立場に立つことが予想され,その意味で学際的なものへと発展すべき要素を含んでいる.年一回全国的に開催される「心理リハビリテーションの会」は昭和51年にすでに日本学術会議の登録学会となり,単に同好会的なものをはるかにこえた研究的集団活動となっている.
また,この一連の研究活動の源泉は,脳性麻痺児のもつ「動作の不自由さ」を心理学的な立揚から追求し,実際にその不自由さを軽減させていこうという実践活動から出発しており,この臨床の場面で組立てられてきた訓練手技が「動作訓練法」と呼ばれるものである.この訓練手技は,現在,脳性麻痺児を対象として肢体不自由養護学校において多用されているほか,最近では多動児などの情緒障害児などにも臨床的に試みはじめられてきている.
この心理リハビリテーションという実践的な方法を開発してきたのは,九州大学教育学部の成瀬教授を中心とするチームであるが,このチームと私が最初に接触したのは,昭和39年頃のことである.当時私は九州大学に勤務していたが,筋電図の実技について成瀬教室の当時の大学院生が指導を求めに来たことがある.それ以後,私が足立学園に移ってのち,昭和45,46年頃まで,私は城戸正明先生(前粕屋新光園長,前福岡教育大教授)や多田俊作先生(前粕屋新光園長,現福岡教育大教授)らの整形外科医とともに,時に招かれて成瀬教授らと意見を交換する機会があり,また1~2回夏季のキャンプを訪れて実際の模様をみせてもらったこともある.それ以後,一時交流はとだえたが,最近私達のチームが拡大して,臨床心理のメンバーが私達の仲間になり,また教育現場との交流も以前にまして盛になってきて,種々の面からこの心理リハビリテーションについての知識がふえてきている.私自身の臨床医としての経験の中には,私達が治療中の症例が無断でキャンプにいったり,時にアキレス腱切断などの事故を起こしたりした不愉快な想い出もあるが,そのことはそのこととして,脳性麻痺児の治療にたずさわるものとしては,できるだけ正確に,かつ客観的にこの方法を知りたく思い,現在では私自身が紹介状を書いて積極的に患者を紹介することもあり,結果として改善をみた症例もある.後述するが本法はすでにわが国における脳性麻痺児の治療手段として,主として教育関係者に限局はするが,広く普及しており,その実績をももつものであるから,小児のリハビリテーションに関係する医療関係者としても,この方法に対し,いつまでも無関心であってはならないと思っている.
私が,本法を紹介する最適任者であるとは思っていないが,以上のようなことから,あえて筆をとらせていただくことにした.私自身の判断を通して,本法の背景となった養護学校の養護・訓練について述べ,次いで本法の理論,技法,効果などについて述べたいと思う.
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