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はじめに
萎縮し弱化した筋肉を強くすること,麻痺した筋肉の一部に生き残っている筋肉をより強化して機能の代償を行わせること,あるいは正常の筋肉をより一層平均以上に強化することなどは,我々運動器疾患を治療する者にとって非常に大切な命題である.疾患の後療法として,あるいは手術後に行われるばかりとは限らない.手術の前からそして疾患の初期より試みられて想像以上の効果をあげることが出来る.あまり行われていないかもしれないが,腹部の手術を行う前に腹筋の訓練を行って術後好結果を得たなどという報告もあるくらいである.従って運動器疾患を扱う医師にとってのみならず,その利用価値はもっと他の領域にも拡大し得るわけである.
ここで筋力強化とか増強という意味には実際上は2つの根本的な考えがあり,1つは筋そのものの張力(外界への出力を含めて)の増大であり,もう1つはその張力が長時間持続する能力を獲得することである.瞬発力は大きくても長時間の筋収縮に耐えられなければ実際の日常生活動作での利益は薄い.しかも,筋肉には持続的に収縮するのに適したものと瞬間的に収縮して疲労し易いものと2種類あることも知られており,その機能は分化しているようにも見られる.ここでは筋肉の構造,微細構造,筋肉の蛋白質化学,あるいは基礎的な生体力学などにはあまり触れないで,実際的な筋収縮の方法とそれに準ずる訓練の方法論について概説するに止めたい.
最近の米国における整形外科医の動向を見ても,筋力増強,運動療法は非常に重要視されていることがわかった.一時代前にはcut doctorと悪名を(?)頂戴した彼等が何とおどろくべき情熱をもって筋力増強の手技に取り組んでいるのである.手術成績の向上にもちろん大切なこともあるが,最近の患者のdemandがより高度となり手術後のふつうの一般人よりquietな状態のADLで満足せず,さらにactiveな社会生活を望んでいるということが一因であるということである.それに加えて整形外科医の半数以上が関係しているスポーツ医学なる領域において一層はっきりと必要性が強調されているものであった.それ故に整形外科医も,本邦がそうであるように,リハビリテーション医学との交流,知識の習得に熱を入れているというのが現状である.筋力増強をなるべく能率よく短期間で達成するにはどうしたらよいであろうか? このような点を考慮して以下筋収縮の種類と対比させつつ概説を試みたい.
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