Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
整形外科領域において変形性膝関節症はかなりの割合を占めているが,その関節痛発生機序は十分解明されていない5,6,18,20,21).一般的にその機序に寄与すると考えられる因子として次のようなものがある.
1)関節内圧23,24,26)
内圧の変動による疼痛発現は内圧の絶対値の高さとは関係なく,急激な内圧上昇によるものであるという.
2)関節内温度
滑膜は温覚・冷覚を欠くが,関節痛が気候に敏感であったり,温熱を加えると疼痛の軽減に役立つのは,滑膜が温覚・冷覚を受容しないけれども温度に無反応ではなく,自律神経を介して関節部の血行循環に影響がおよぶ結果と理解される.
3)機械的刺激27)
関節軟骨の弾性が減少すると生理的状態より圧痕が残りやすく,関節軟骨のacongruencyを生じ,関節異常刺激となって疼痛をおこす.そのほか関節鼠における嵌頓痛は機械的刺激による関節痛の代表的なものであろう.
4)潤滑性1)
生体の関節運動での摩擦は極めて小さく,氷片が氷面上を滑る場合のそれよりもさらに小さい.
ホルマリン注入による実験的関節炎では注入後,摩擦係数は急激に増加し,5日後には約8倍に達する.これらの実験からみれば,関節液の質的変化はおそらく関節の潤滑性に影響を与え,摩擦係数は増加する.すなわち,摩擦係数が増加すれば関節痛が生じるであろうと思われる.
5)生化学的作用
生体組織に障害が加わる時,障害因子の如何にかかわらず疼痛・腫脹・熱感などの共通の反応を呈してくる.したがってそれらの反応は障害因予そのものによることは少なく,障害の加えられた組織より遊離される,または活性化される化学物質を介するものと考えられる.
これらの化学物質はchemcal mediator4)と呼ばれている.そのmediatorとして現在までに知られている主なものはhistamine,serotonin,bradykininなどのpolypeptideに属するkinin類とplasmin,kallikreinなどの蛋白分解酵素などである.
変形性関節症ではserotoninが増加し,これはほぼ関節痛に比例して増加する.
①pHの変化8):炎症巣では一般にpHは酸性に傾くことが知られており,関節液についても変形性膝関節症ではpH値は高く,その平均値は7.55である.このpH値が酸性に傾くことが関節痛発生機序に何らかの役割をもつことは以前から考えられており,Kron10)は等張重曹水を変形性膝関節症の関節内に注入し,鎮痛効果があることを見出し,その作用機序は関節液の粘度低下が一旦生ずると関節運動に円滑を欠き,そのため関節腔内に炎症を生じ,関節はさらに酸性に傾くと述べている.
ムチンの溶解度が減少し粘度はさらに低下する.したがって粘度が低下すると酸性に傾く.
等張重曹水の効果は関節液をアルカリ性に移行させることでその悪循環を断つことにあると述べている.
②結晶による変化(crystal induced inflammation):関節液中に結晶が出現すると白血球増多をもたらし,白血球は活発にその結晶を貧食する.白血球の代謝性増大のため乳酸濃度が高まり,関節液のpHは低下する.pH低下の条件はさらに結晶化を促進し,circus vitiosusが成立する.実際に炎症反応の程度は関節液の結晶数よりもむしろ負食白血球数に比例している.したがってpH値が低下し,貧食白血球数の増大は疼痛発生機序に役割をもたらす.
以上のようなものが考えられるが関節内圧は関節内面の病的状態を知る上で重要な問題の一つである.
著者らはこの関節内の変動を電気血圧計を応用した測定装置を用いて初圧,終圧,肢位による内圧変動,大腿四頭筋等尺性収縮による内圧変動を測定し,別に膝関節内圧と膝屈伸筋の作用をみるためにcybex machine13~16),筋電計,関節内圧自動測定装置25)の3つを同時併用して,同期的,経時的にポリグラフで記録描記した.
Copyright © 1975, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.