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はじめに
平均余命の延長,大気汚染,喫煙,等の因子から副題の慢性閉塞性肺疾患の問題がその数と内容と医療と福祉の面からクローズアップされてきたことは間違いない.しかしなお慢性閉塞性肺疾患自身が正確にどんな疾患をさすのか,または症候群としてとらえるのか医療面では確定はしていない.我が国においては医療の面よりむしろ行政の面で整理がなされ公害健康被害補償法ではこれは肺気腫,慢性気管支炎,気管支喘息,瑞息性気管支炎の4疾患を示すとしている.これらの各疾患の定義についてまた慢性閉塞性肺疾患(COPDまたはCOLD Chronic Obstructive(Lung)Pulmonary Disease),慢性気道閉塞(CAO Chronic Airway Obstruction)の概念と定義については各国においてそれぞれ独自のものを持っている.我が国においては肺気腫に関しては故元慶応大笹本浩教授,東北大中村隆名誉教授を中心に肺気腫研究会で永年討議し,一応の定義を得ているが,この研究会が10年目に慢性閉塞性肺疾患研究会と名称を変更したようになお再検の段階にある.特に本年は研究会発足20周年にあたるのでこの問題を考える作業が進められている.
我国の今日の段階では一応慢性閉塞性肺疾患は肺気腫,慢性気管支炎,喘息と大疾患の総括したものと考えてよいと思う.ただし米国などの文献をみていると,最近は喘息だけは別にしている傾向にある.
さてこの3大疾患にしてもその病因はまったく異なるものであるということが問題である.肺気腫は主として形態の変化(肺胞の壁の断裂を伴った拡張)でありその原因は尚つまびらかではないがα1 Antitrypsinの欠損,遣伝性などが考えられている.一方なぜ肺胞の拡大が気道閉塞をもたらすのかについても単なる圧迫もさることながら気道自身の変化の併存も考えらえるという報告もある. 慢性気管支炎は症状も連続して(毎日,3カ月以上,2年以上)喀痰の喀出があり,然も限局性の病変がないとされている.これを更に単純性,感染性,閉塞性の3つに分けているが,これは閉塞を伴わないものもある事を示し,全部の慢性気管支炎を慢性閉塞性肺疾患に入れるのはちょっと奇異な感じがするが,一方病理的に気管支内腔に病変のある事も間違はない.
喘息については米国で慢性閉塞性肺疾患からはずす傾向にあるといったが,これは喘息の気道閉塞が可逆性であり,治癒もし得る(幼少時のもの)からであろうか.原因も単なるアレルギーに限らずアスピリン端息,運動負荷喘息のような一過性のものも含まれているので,ますますその慢性性からは遠く一過性の気道Spasmusと別にしてもよさそうである.一方長期に経過するものの中には気腫状になったり感染が加わり,発作も通年性となると肺気腫や慢性気管支炎との艦別もむずかしくなる.
さてこのように原因も異なるが共通して閉塞(気道のしかもその証明は今の所臨床的には一秒率という簡単なもの)があるということだけで一まとめにされているので,これ全体に共通した治療があるわけでない.この事は肺理学療法を行う上にも大切で慢性閉塞性肺疾患であるからこれこれの肺理学療法を行うというのではなく,少なくともこの3つの疾患のどれかあるいはどれに最も近いかを知ってそれぞれに適応した手技を行うことである.
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