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はじめに
第二次世界大戦終了後,欧米諸国は,それぞれ,直ちに国家的なプロジェクトを設け,傷痍軍人を始めとして,多くの障害者が社会に復帰するのに必要な福祉関連機器の開発に着手した.当初は義肢装具の開発に主体がおかれた各プロジェクト研究は諸科学の発達に応じて,次第にその対象が拡大されるようになってきた.特にアメリカのNASA計画がもたらした技術の民間還元が1975年頃から活発になるにつれて,福祉関連機器開発の気運が高くなってきている.
これに対し,わが国においては,敗戦と同時に軍が解体され,それと共に,義肢装具の体系化された研究開発システムも霧散し,戦後の混乱期が終って,高度成長時代に移っても,この関係の研究はほとんど省みられることなく,約20年以上も放置された.その間に,僅かに国がなしたことは,身体障害者福祉法や児童福祉法,労働災害補償法その他の法律を作り,障害者に一部の福祉関連機器を無償支給できるようにしたことであった.
しかし,これらの支給品は,その品目,全体構造の概要及び最高価格を定めたに過ぎず,その機器の機能や品質に関しては何らの基準も定められないままで現在まで放置されてきた.また,これらの機器の性能改善に関しては全くの野放しで,民間企業のなすがままにまかせられている.そのため,形だけは外国製品をデッド・スケッチしたものや,粗悪な材料を使用しているために生ずる機能の経時劣化のため,使用に耐えない部品が市場を横行している.
障害者はもちろん,処方や訓練にたずさわる臨床医療チーム,製作技術者たちから,諸種の不満が山積しているにもかかわらず,技術改善がほとんどなされていない.
であるからといって,こうした機器部品メーカが利潤主義に走り過ぎているという非難を加えることは,これまた当を得ない浅薄な判断といわなければならない.何故ならば,このような福祉関連機器は,使用する側が障害者であるから,単に機械的に動けばよいといったものでなく,安全性,信頼性を考慮し,使い易く設計するには,人間工学的配慮,材料工学的検討,精密工学的工作等,極めて高度な工業水準の工場で生産し,品質管理を行わなければ満足なものは生まれない.
ところが,こうした高度の技術をもつ企業では,生産効率,資金効率に重点をおいているため,需要量も少なく,パラエティも多い福祉機器では,企業意欲をかきたてることができず,何度生産依頼をしても,問題にしてくれない.市場競争の激しい現在では,これをとりあげていたのでは企業の死活にかかわるからである.
このためには,国が抜本的な福祉機器産業対策を確立しなければ,百年の悔を残すことになる.中には,ドル過剰の現状から,海外輸入にまかせたらという意見も多数在るが,周知のように,日常生活様式が欧米と日本ではかなり異なるため,欧米製品をそのまま直輸入しても,ある時は,西洋化した都市生活者には何とか利用できても,山村や田園地域の生活者には全く受け入れられなかったりして,広く国民生活に融けこませることは難しく,何らかの改造を加えなければならない.
したがって,施策的に福祉関連機器の開発を体系化しないことには解決の方法はない.
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