Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
古代ギリシャのヒポクラテス全集中に言語障害を意味するaphonosとかanaudosということばがしばしば用いられており,その内容には広範囲のものが合まれていたものと想像されるが,失語症もその一部を占めていたものと考えられる12,13).
17~18世紀になると,明らかに失語症と考えられる症状の記載が多くなり,その症状から,ある程度その種類を推定できるものもかなり見られる.しかし,そのいずれも症例報告的なものに止まっているのがその特徴といえよう.
この時代には失語症の原因として,脳の器質的障害によって起ることについては異論のないところであったが,分類という段階には程遠く,一部の人達に左大脳半球が関係あるとの記載のある他には,病巣の局在論的な考えかたはみられなかった.
19世紀に入り,言語機能が脳の特定の部位によって支配されているとの考えかたが次第に強くなり,これに寄与した先人で有名なのはGall(1807),Dax(1836)などがあげられる12,13).
しかし,何といっても失語症の黎明期を迎えるに至った契機となったのは,Broca(1861)が,言語の理解はかなりよいにもかかわらず表出に障害のある症例について,障害部位が第3前頭回にあることを発表したことであるといえよう.
この時初めて失語症分類の第一歩が始まったといえるし,病理学的な研究が緒についたともいえるであろう.
それ以来,現在にいたるまでやく110年間,この分野は大きな関心をよび,目ざましい進歩と解明がみられた.その間,これに寄与したものとして,第一次および二次世界戦争による頭部外傷患者についての研究,脳外科領域における偉大な進歩,脳機能検査領域における開拓(脳循環量測定,Dichotic Listeningなど)などがあげられるであろう.
また,やや遅ればせながら,ほぼ平行して究明されたものに失認・失行があり,脳の高次機能として失語とも関連性が少なくなく,これらの領域はより幅広いものになりつつあるといえよう.
近来,失語症はその症状や分類にとどまらず,リハビリテーションに関しても多くの業蹟が累積されつつあり(失認・失行のリハはまだ緒についたばかりであるが),それがまた分類面にも影響を与えているといえよう.
失語症は,たんに言語面の障害だけに止らず,非言語分野にも影響を及ぼすことが少なくなく16,17,20),その病像は複雑で,その分類についても,今後検討されるべき多くの問題を残しているものといえよう.
少なくとも現段階でほ,その分類については,背景に未知の分野をかかえた暫定的なものであるともいえるのではなかろうか.
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.