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緒言
人の膝関節は高度に進化した器官の一つであって,他の動物と比較してみると,その解剖学的特徴が極めて明らかである.これは,人にあっては起立歩行という機能が加わってきたために,膝関節を完全伸展位をこ保持する機構が要求された結果であろうと考えられる.
この新しい要求を充たすために,膝関節を構成する骨組織や軟部組織に数多くの特徴的変化が認められる.たとえば,人の膝関節内部には内外半月が発達しており,代りに十字靱帯の発達は他の猿などの動物と比ぺると比較的小さい.大腿骨外側顆は内側顆より大きく,また膝蓋骨関節面はこの内外側顆と関節を形成するが,膝関節の屈曲伸展運動に際して,対応面相互が動いていく.
下肢の伸展筋は骨盤筋群と協同して活動しており,特に殿筋群は,膝関節伸展位で起立した場合に重要な働きをする筋肉となった.
膝関節の安定性を維持するための機構を今少し詳しく眺めてみる.膝関節伸展位における安定性に大きく関与するものは大腿四頭筋と腓腹筋および膝窩筋であるが,このことは膝関節の側副靭帯や十字靱帯の断裂を有する患者に特に明らかに証明される.これら損傷を有する場合の治療には大腿四頭筋の良好な緊張と筋力を獲得することをゴールとして治療プログラムを立てる.また関節構造の上からも,膝関節の安定性は完全伸展の時に高まるようになっているが,この時よくいわれる“screwhome”現象が生じているのであって,この際に大腿骨内側顆の関節面の動きが重要な役割を演じている.また同時に大腿四頭筋の内側広筋の働きが必要である.
人が直立している時には重心の位置も膝関節を安定させる要素の一つである.膝関節伸展位では重心線は関節軸の前方に落ちているので,膝を伸展位に保つように働く.そしてこの位置では側副靭帯が緊張するので,これも伸展関節の安定性を増すように作用している.
ところが膝関節が屈曲位をとると,大腿四頭筋の負担は大きくなり,それに補助として大殿筋や腓腹筋などが安定性と平衝の保持のために加ってくる.腸脛索は,解剖学的位置から考えて,股関節と膝関節の両者の安定に参加しており,腸骨から脛骨へ走る間に大殿筋が後方に,大腿筋膜張筋が前方に付着しているので,これらの筋が収縮して股関節を動かしながら膝関節の安定性にも関与することになる.
さてこうして膝関節は複雑な構造と機能を有しており,特に屈曲時においてはさらにわずかではあるが回旋が加わるゆえに,単なる蝶番関節ではな.そのため,膝関節は屈曲時における外傷に対しては損傷を受けやすく,また体重を負荷した位置でストレスや機械的過労をくりかえすために,いわゆる変形性関節症を多く生じるのである.
加齢と共に,膝関節部に愁訴を有する患者の増加を見,これらがいわゆる変形性膝関節症と診断されることが多い.これは特に女性の占める割合が高く,しかも患者の日常生活に大きな障害をおよぼす原因になっている.逆にまた日常生活のあり方が愁訴に影響している.
膝関節疾患を訴える場合には,性別,年齢別などでかなり特徴ある所見を有し,診断も異るが,ここでは障害の程度が著しい変形性膝関節症に目標を置いて述べていきたいと思う.その理由は,膝の機能障害がADLに及ぼす影響をしらべるには,多数の膝関節疾患の終局としての関節症がここに含まれているためであり,症例の多数を占める変形性関節症の中にADLの問題を明らかにできると考えるからである.
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