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はじめに
ADLとは何か,ADL評価とは何を見るためのテストかということは,非常にむずかしい課題である.ADLの範囲を個人の生活のごく基本的なものに限るのか,職業上の動作まで含めるのか,また精神的なもの,意志伝達に関するものはどのように考えるのか等,複雑な内容を含んでいる.その評価も筋力・ROM等の解剖・生理学的なものから,精神的・社会的・職業的因子を含むものまで考えられる.下河辺氏1,2)はADLテストは,「人」を社会的個と見ての評価でなくてはならないと述べている.上田氏3)は障害をimpairment(機能障害),dlsability(能力障害),handicap(不利)に分けADLはdisabilityが中心である.すなわち,個体全体の能力が問題であるとしている.現在日本の多くの病院等で用いられているADL表は,障害の原因によって評価表の内容を異にしているものが多い.なぜならば,片麻痺と切断者とでは同じ項目を挙げても,その評価内容は同じものとはいえないからである.ADLとはこのように,あくまでも個体の総合的な能力の評価であって,単にROMまたは筋力の評価から推定し得るものではない.しかし一方,われわれ整形外科医は,日常多くの障害補償の診断書で筋力とROMの記入を行っている.これは解剖・生理学的個としての機能障害でもって,人間個体としての全体的な能力(補償の場合は職業的な能力)の喪失の度合をみようとするものであるが,果たしてそれが正しい方法であるか否か問題である.たとえば,ROMに何の制限がなくても,アテトーゼの強い患者では上肢の日常生活での有用性は非常に低いし,関節のほとんど動かないRA患者でも自助具を用いて自立した日常生活を営むことができるからである.ではROMとADLの間に何らかの因果関係を見出そうとするのは無意味であるかというとそうではない.今ROMの制限がある場合にADLを何ができるかという観点から眺めてみると,これには各種の代償動作・器用さ等の要素が多く入り込み,判定が複雑となってくる.しかし逆に,ROM制限がある場合何ができないかという見方をしてみると,ある程度の個体差はあっても,これだけは絶対にできないという線を引くことができる.たとえば,肘関節の屈曲が70°では顔を洗うことはできないし,膝関節が伸展位では正座ができないといったようなことである.このように,ROMの制限のために明らかに制約をうけるADL動作を知ることは,臨床面で治療方針の決定,ゴールの設定等を行う際に大きな助けとなる.今回はROMとADLの関係について,このような観点にたって,主に著者の研究している肘関節の動きを中心に考えてみたい.
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