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はじめに
片麻痺者の日常生活については,最近リハビリテーション関係者の間で様々な感想,慨嘆,批判などが囁かれるようになった.片麻痺はリハビリテーションの対象としては多数を占め,それだけに経験の蓄積も多くなったということであろう.それらを思いつくまま列挙するとほぼ次のものが挙げられる(もっともその多くは,片麻痺に限らずリハビリテーションにおける日常生活動作訓練批判でもある).
1)訓練室で訓練しても病室でそれが生かされない.付き添い者がみんなやってあげてしまう.
2)病院内で自立しても,家に帰るとまったくやらないでボンヤリしている.
3)西洋式設備のもとで教えられたやり方では,日本式住宅であるわが家に帰った場合通用しない.
4)自宅では人手が多くやってあげてしまうので,せっかく習って帰っても役に立たない.
5)作業療法士や理学療法士が「自立した」といってもあてにならない.実際にやらしてみると,スピードがおそくやり方が拙劣で危っかしくてみていられない.
6)老人の場合,今さら叱陀激励して「自立」をめざす訓練をする必要があるのだろうか.それよりも,配偶者の手を借りながら円滑にすすめる方法を教えた方がよいのではないか.
7)片麻痺の日常生活動作指導で大事なのは「動作」ではなく「生活」である.帰っても散歩する空間もなく,家を改造する手だてもない.「生きがいの発見」につながる指導こそ生きた日生活動作指導ではないか.
8)日常生活動作指導に「コミュニケーション」指導が欠落しているのではないか.失語症が重度の場合,どんな方法によればコミュニケーションができるか,その方法を開発してもらいたい.
9)主婦の場合,単に動作としての家事ができるというにとどまらず,家政をとりしきる能力まで訓練しなければ実用性がないのではないか.
10)「寝たきり老人」に対する介護指導も日常生活動作指導に含めるべきではないか.などなど
病院,施設,職業関係者および家族の者など,片麻痺者が放つこうした問題点はひとつひとつもっともであり真剣に議論されてよいことばかりである.これらは単に,作業療法士や理学療法士の行う日常生活動作訓練の技術上の問題点ばかりでなく,広く片麻輝者の日常生活,社会生活,職業生活全般にわたる諸問題,ひいては「生きがい」「余暇の暮し方」「老後の暮し方」など現代人のかかえる共通問題にまで及んでいる.日常生活動作の指導技術から出発したわれわれリハビリテーション医療関係者も,真に役立つ指導を行うためには片麻痺者のもつ背景,ライフサイクルといったものの理解がどうしても必要になってきたというのが現実の姿といえよう.そこまで指導技術も深みを増したともいえようか.本論文では,こうした視点から片麻痺者の日常生活動作を整理しなおす作業をしてみようと思う.ただし,筆者の経験は東京という首都圏での片麻痺者のみであることをおことわりしておく.
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