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Ⅰ.はじめに
脊髄病変により生じた不全麻痺のうち,ここでは主として下半身の運動麻痺の理学療法を中心にとりあげる.対麻痺paraplegiaとは両下肢麻痺を意味し,対性不全麻痺paraparesisは若干の運動機能が残存する状態に対して用いられる言葉である.これらは患者にみられる状態像に対しての命名であり,その原因の大部分は脊髄病変にあるが,parasagittl meningiomaのような脳内病変によるもの,先天性痙性対麻痺congenital spastic paraplegiaのような脳性麻痺の一型,遺伝性失調症hereditary ataxiasに含まれる遺伝性痙性対麻痺hereditary spastic paraplegiaのように皮質脊髄路のみでなく,前中心回の巨大細胞にまで病変の及ぶ疾患,またフリードライヒ失調症Friedreich's ataxiaなど脊髄後索を中心として,その他に皮質脊髄路,脊髄小脳路の病変を合併するものも存在する.これらは英語圏での見方であるが,一方ドイツ語圏では構断性麻痺Querschnittsähmungenとして脊髄の異なる部位(高さ)で生じた種々の原因による病変の結果として,脳から末梢への連絡が断たれた状態を意味する用語が用いられる.前者は主として患者の状態像を示す言葉であり,後者はその原因となる病変を意識させることに重点がおかれた表現といえよう.本邦のリハビリテーション分野では対麻痺paraplegiaとして,もっぱら患者の状態像をとらえようという立場であるとみなされる.
一般に神経・筋疾患に対しては,対麻痺を含めて,診断決定までは多くの努力がはらわれるが,その後の治療については外科的処置の可能な一部の疾患を除いては,積極的な治療方法は確立していない.そのためにリハビリテーションが期待されるものであるが,現状ではそれも不十分ある.それは一つには疾患の十分な把握,それに対応する手法が未だ決定され得ない点に問題がある.ここでは外傷を除く種々の原因による対麻痺をどのようにとらえるか,それに対するリハビリテーション,とくに理学療法をどのように対応させるかについて基本的な考え方を記すことにする.
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